プラセボ投与時の有害事象における視床下部‐下垂体‐副腎の活動

CLIN PHARMACOL THER, 110, 1349-1357, 2021 Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Activity in Adverse Events Reporting After Placebo Administration. Benedetti, F., Amanzio, M., Giovannelli, F., et al.

背景

臨床試験においてプラセボ投与群の参加者が様々な有害事象を報告することはよくあることであり,ノセボ効果と呼ばれている。これまでのノセボ効果に関する研究では,視床下部‐下垂体‐副腎(HPA)軸の活動,特に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やコルチゾールの上昇が重要で,ベンゾジアゼピン投与でこの上昇が抑えられることがわかっている。しかし,プラセボ投与による有害事象発現におけるHPA軸全ての活動を調べた研究はない。

方法

本研究ではプラセボの酸素投与を192名の参加者に行った。100%酸素投与が行われるマスク装着の1時間前に,典型的な有害事象のリストを書いたリーフレットを読んだ上で参加したREAD群と,有害事象のリストを読まずに参加したNO-READ群に,それぞれ96名を割り付け,30分前に状態・特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventor:STAI)を行い,10分間酸素マスクを装着した。また酸素マスク装着の15分前と10分後に採血を行った。血漿中の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH),ACTH,コルチゾールを午前8:30~11:00に測定した。

NO-READ群とREAD群の比較には,年齢と体格指数(BMI)を考慮した上で,独立したサンプルのt検定を行った。

結果

有害事象を報告しなかった参加者の割合はNO-READ群の64.5%に対してREAD群では20.8%と有意に少なかった(p<0.001)。1件の有害事象を報告した参加者の割合は2群で変わらなかったが,2~4件の有害事象を報告した割合はREAD群の方が有意に多かった。

有害事象を3~4件報告したREAD群の参加者は,STAIの評点がNO-READ群よりも有意に高く(p<0.001),プラセボ投与後では投与前と比べて,CRH,ACTH,コルチゾールの有意な上昇が認められた。また,これらの参加者では有害事象を報告しなかった参加者と比較して,プラセボ投与前のACTH及びコルチゾールの値は変わらなかったが,CRHのみがプラセボ投与前から有意に上昇していた(p<0.007)。NO-READ群では,プラセボ投与前後でCRH,ACTH,コルチゾールに変化は認められなかった。

考察

本研究の限界としては,まず期待に関して測定していなかったため,ネガティブな期待の大きさと有害事象の程度の相関を見られなかったことがある。また,本研究は酸素マスクの装着という実験状況のため,臨床場面におけるノセボ効果に一般化できないかもしれない。また,本研究はコロナウイルスのパンデミック下で行われたため,酸素投与に対する注目が特に大きかったかもしれない。

プラセボ効果とノセボ効果は薬剤開発において重要な問題であるが,これまでの多くの研究はプラセボ効果を調べてきた。ノセボ効果に関する理解は臨床試験における遵守性や脱落者を制御する上で重要となるかもしれない。

結論

HPA軸の活動と状態不安の上昇は,有害事象のリストを読んだ後の有害事象の報告の多さと関係しており,プラセボ投与後の有害事象の報告の神経内分泌的機序かもしれない。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(髙宮 彰紘)

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