妊娠中の抗うつ薬の処方とデンマークの学童期児童の標準化テスト評点との関連

JAMA, 326, 1725-1735, 2021 Association of Maternal Antidepressant Prescription During Pregnancy With Standardized Test Scores of Danish School-aged Children. Christensen, J., Trabjerg, B. B., Sun, Y., et al.

背景

妊娠中の抗うつ薬の使用頻度は国や地域によって異なるが,おおむね2~10%と見積もられている。妊娠中の抗うつ薬の使用が先天奇形だけではなく,認知及び神経心理発達に与える影響について明らかにすることは重要である。しかし,妊娠中の抗うつ薬使用の影響を検討する無作為化試験は実現不可能であり,これまでの報告は観察研究によるものであるため,様々な交絡因子を含んでいる。加えて,出生前の抗うつ薬曝露と認知機能や学業成績との関連に着目した長期研究はほとんどない。

本研究では,妊娠中の母親の抗うつ薬処方が,デンマークの学童における標準化テストの成績と関連しているかどうかを検討した。

方法

本研究は,親子共にデンマーク生まれで,1997年1月1日~2009年12月31日に出生し,公立の小中学校に通う児童を対象とした全住民ベースの後方視的コホート研究である。本コホートから,2010年1月1日~2018年12月31日に,デンマーク全国テストプログラムの国語または数学のテストを最低1度受けた児を同定した。児童の年齢は7~17歳であった。

妊娠中の母親の抗うつ薬処方情報はデンマーク処方記録から入手した。児の抗うつ薬への曝露は,母親の最終月経30日前から出生までの期間に1回以上の処方があったこととした。

妊娠中の抗うつ薬曝露と数学及び国語テストとの関連は,母親が抗うつ薬の処方を受けた児童と受けていない児童との間の標準化された得点[1(低得点)~100(高得点)]の差を,関連する交絡因子で調整した線形回帰モデルを用いて推定した。

感度分析は,同胞対照分析を含めて10回行った。

結果

対象となった575,369名の児童(男児51.1%)のうち,母親が妊娠中に抗うつ薬を処方されていたのは10,198名(1.8%)であった。解析に含まれた児童の検査時の平均年齢は小学2年生(8.9±0.4歳)~中学2年生(14.9±0.4歳)であった。

母親が妊娠中に抗うつ薬の処方を受けていた児童(曝露群)では,受けていない児童(非曝露群)に対して数学テストの点数が有意に低く,平均点[95%信頼区間(CI)]は曝露群で52.1(51.7-52.6),非曝露群で57.4(57.3-57.4),調整後の差は-2.2(95%CI:-2.7--1.6)であったが,国語テストでは両群に差はなく,平均点(95%CI)は曝露群で53.4(53.1-53.7),非曝露群で56.6(56.5-56.6),調整後の差は-0.1(95%CI:-0.6-0.3)であった。

同胞を対照とした感度分析でも,曝露群で数学テストの点数が有意に低く[平均点(95%CI)は曝露群で53.5(52.7-54.3),非曝露群で59.0(58.9-59.1),調整後の差は-2.8(95%CI:-4.5--1.2)],国語テストでは両群で差がなかった[平均点(95%CI)は曝露群で53.9(53.2-54.6),非曝露群で56.6(56.5-56.7),調整後の差は-0.3(95%CI:-1.9-1.2)]。

考察

妊娠中の抗うつ薬投与は数学テストにおける低い点数と統計学的に関連があったが,その差は小さく(100満点中2点),臨床的意義があるかどうかは不明である。また,国語テストの点数は抗うつ薬曝露群と非曝露群で差がなかった。本研究で見られたテストの点数の差は小さいことから,この結果については妊娠中の母親のうつ病治療の必要性を考慮して検討する必要がある。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(岩田 祐輔)

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