【from Japan】
産後1年までの抑うつ症状及びそれに関連する心理社会的因子:東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査からの知見

Journal of Affective Disorders, 295, 632-638, 2021 One-year Trajectories of Postpartum Depressive Symptoms and Associated Psychosocial Factors: Findings from the Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study. Saya Kikuchi, Keiko Murakami, Taku Obara, Mami Ishikuro, Fumihiko Ueno, Aoi Noda, Tomomi Onuma, Natsuko Kobayashi, Junichi Sugawara, Masayuki Yamamoto, Nobuo Yaegashi, Shinichi Kuriyama, Hiroaki Tomita

菊地 紗耶(きくち さや)先生

東北大学病院精神科/東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野

菊地 紗耶先生 写真

背景

産後うつは産後女性の10~20%に出現し,母親だけでなく子どもの情緒発達や家族のメンタルヘルスに影響を与えることが知られている。多くの研究で,産後数ヶ月時点での有病率や心理社会的因子が報告されてきたが,産後1年までの経過やそれに関わる心理社会的危険因子についての研究は不十分であった。

方法

2013年7月から2016年9月に東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査に登録された妊婦22,493名のうち,必要項目に有効回答が得られた11,668名を分析対象とした。

産後1ヶ月時と産後1年時におけるエジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)への回答が9点以上を抑うつ症状ありとした。妊娠中は,Kessler Psychological Distress Scale(K6)を施行した。心理社会的因子としては,年齢,教育歴,世帯所得,妊娠受容,出産歴,産後1年時の配偶者の有無,社会的孤立を選定した。

多項ロジスティック回帰分析を用いて,心理社会的因子と産後1年時の抑うつ症状との関連を検討した。

結果

産後1年時点で,12.9%の母親に抑うつ症状があり,それは産後1ヶ月(13.9%)とほぼ同等であった。産後1年に抑うつ症状を呈していた母親のうち,約半数である53.2%は産後1ヶ月時点では抑うつ症状を呈していなかった。産後1ヶ月と1年の抑うつ症状の経過から4群に分けられ,persistent(持続)群が6.0%,recovered(回復)群が7.9%,late-onset(遅発)群が6.8%,resilient(正常)群が79.2%見られた(図)。

社会的孤立,低所得,妊娠受容不良も同様に,抑うつ症状のある全ての群で抑うつ症状と有意に関連していた。一方,初産婦であることは,持続群・回復群では抑うつ症状と有意に関連していたが,遅発群では関連していなかった。年齢(29歳以下)は持続群・遅発群では有意に関連していたが,回復群では関連していなかった。配偶者なしは,遅発群でのみ有意に関連し,教育歴(高卒以下)は持続群でのみ有意に関連していた。

結論

遅発群は産後1ヶ月時には抑うつ症状が見られないため,産後1年時に抑うつ症状を呈していても見過ごされてしまう可能性がある。遅発群も含め,抑うつ症状のある全ての群において,妊娠中の心理的不調が関連していることから,抑うつ症状を呈する可能性のある女性に対しては,妊娠中から継続的に注意を向ける必要がある。産後1年経過しても抑うつ症状が出現するリスクに注意し,産後直後だけでなくより長期的な視点に立ってスクリーニングやケアの体制を構築する必要性が示唆された。

図.産後1ヵ月と1年次時のEPDS評点の推移

253号(No.1)2022年4月1日公開

(菊地 紗耶)

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