【テーマ:自閉スペクトラム症①】
自閉症に対するケアと臨床研究の未来に関するランセット委員会

LANCET, 399, 271-334, 2022 The Lancet Commission on the Future of Care and Clinical Research in Autism. Lord, C., Charman, T., Havdahl, A., et al.

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自閉スペクトラム症(ASD)は世界で7,800万人が罹患している疾患であり,その罹患率の高さや患者及びその家族への影響の大きさからも,世界規模で重要な疾患と位置付けられている。この20年間でASDに対する認識は飛躍的に向上した。その中でも最も注目すべきは,この異質性の高いASDの人々の生活の質(QOL)を向上させるために多くのことが行われてきたことである。このような変化は,実用的な臨床問題に焦点を当てた科学への投資と,自閉症患者とその家族の多様で複雑なニーズを認識する社会制度とサービスによって生じるであろう。

このような背景の中,ランセット委員会が次の5年間で解決すべき問題及びニーズについてまとめたものが本総論である。本総論は60頁を超える大作であり,紙面の都合上その全てについてここで記載することは困難である。そのため本稿では本総論で述べられている中でも特に重要な事項についてのみ,まとめて紹介する。

まず最も大事なことは,ASD患児及び患者は身体的にも精神的にも健康に生きることは可能であるが,それを促進するためには,それぞれの患者に対する迅速な対応が重要となることである。ASDは個人個人によって特徴が異なるため,その個人に合わせた段階的な対応が求められる。そのため,エビデンスに則った評価方法とそれに基づく介入が重要となる。そして,それらへのアクセスが全ての患者にとって容易であることも重要である。また,そのような個人個人に合わせた複雑な対応をするためには,行政によるヘルスケア,行政,金融,その他人生においてめぐり会う様々な機関の密な連携が求められる。更に,段階的なケア,個人個人に合わせたサービスの提供,経時的なモニタリングを行うことは,公平でかつ効果的な介入を行っていくための枠組みとして非常に重要である。このようなニーズは,ASDに限らず他の神経発達障害においても同様に求められている。このようにASD及びそれに伴う神経学的な多様性に価値を置くことは,その個人に対してだけでなく,ゆくゆくは社会全体の利益にも繋がる。そのためASD患者及びその家族を救う仕組みや介入に関する研究を行うことは喫緊の課題である。

適切に段階的かつ個人個人に即した介入を行うためには,事前評価や教師・家族など地域のサポーターからの情報が不可欠である。具体的な介入には,社会サービスの導入と生活習慣指導,そして不要なサービスの除外などが挙げられる。これらを行う上では,個人や家族の意向を汲むこと,かつ文化的な多様性にも配慮することが求められる。更に,これらの介入の方針の決定には家族,そして本人が会話可能であれば本人も一緒に行っていくことが求められる。また,自閉症患者とその家族は,誤った有効性が主張された治療法や,実質的な悪影響を及ぼす可能性のある未研究の治療法に対して非常に脆弱であるため,注意を要する。そのため自立性や自己決定を育み,上記のような脆弱性を減らす疾病教育や介入は,治療において不可欠である。またその中でも下記の介入を促すことが求められている(図)。
・包括的な評価や診断を待たなくてもアクセス可能な,早急かつ目前の問題に焦点を当てた介入
・医学的,発達的,行動的,精神的な合併症が発見された際の早急な治療の導入
・個人個人の状況に合わせた合理的かつ段階的なサービスの導入と離脱

エビデンスに基づく介入を優先させるべきであるが,これらの治療のほとんどは短期的かつ集中的であること,教育や雇用支援を含む他の継続的アプローチも,長期にわたって自閉症患者を支援するために必要であることを認識する必要がある。

本稿では社会的介入について簡単にまとめて紹介したが,本総論では診断,治療及び今後求められている臨床研究など多岐にわたって述べられている。詳細については総論の本文を参照されたい。

図.段階的ケア及び個人に合わせた健康介入

254号(No.2)2022年6月20日公開

(和田 真孝)

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