【テーマ:自閉スペクトラム症②】
知的能力障害と自閉スペクトラム症のゲノム薬理学研究:系統的レビュー

CAN J PSYCHIATRY, 66, 1019-1041, 2021 Pharmacogenomic Studies in Intellectual Disabilities and Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review. Yoshida, K., Koyama, E., Zai, C. C., et al.

背景

知的能力障害(ID)や自閉スペクトラム症(ASD)では,他者への攻撃性,自傷行為,破壊的行動などの問題行動がよく見られ,こうした症状は成人期になっても続くことが多い。また,IDやASDでは,精神障害の併存率も高い。こういった原因で,IDやASDでは,抗精神病薬や抗うつ薬等の向精神薬が投与されることが多く,また,多剤併用療法に繋がることも多い。

ゲノム薬理学研究は,ID及び/またはASD(ASD/ID)治療の最適化が期待できるにもかかわらず,研究データはまだ少なく,また該当研究に対する十分な系統的なレビューは実施されていない。よって,本研究では,ASD/IDにおけるゲノム薬理学研究に関する系統的文献レビューを実施することを目的とした。

方法

MEDLINE,Embase,PsycINFOを検索エンジンとして用い,2020年2月までの期間で,年齢層を問わずASD/IDの治療におけるゲノム薬理学研究(査読付きで,英語による原著論文)に関する系統的レビューを実施した。治療転帰として,治療反応性,有害事象,薬物血中濃度を検討した研究を組み入れた。

結果

主に候補遺伝子アプローチを用いた計28報のゲノム薬理学研究が同定された。これらの研究を対象に,対象年齢層別,及び治療転帰別に結果をまとめた。

対象年齢層別の結果では,成人期のASD/IDのみを対象とした研究は同定されなかったが,成人期のASD/IDも一部対象として組み入れた研究が3報のみ同定され,他の25報は小児・青年期のASD/IDのみを組み入れた研究であった。小児・青年期のASD/IDを対象とした25報の研究中,1報は,IDの最も一般的な遺伝原因である脆弱X症候群を対象としていた。更に,小児・青年期のASDを対象とした6報の研究はID併存者が含まれていた。残り18報の小児・青年期のASDを対象とした研究では,ID併存者は組み入れられていない可能性が高かった。

治療転帰別の結果に関しては,28報の研究のうち,12報の研究では主に治療反応性について検討されており,そのうち抗精神病薬,抗うつ薬,注意欠如・多動症(ADHD)に対する薬剤を対象とした研究は,それぞれ5報,6報,2報であった。これらの中で,特に示唆に富む結果は,以下の二つの候補遺伝子に関する研究で報告されていた。すなわち,①DRD3遺伝子のSer9Gly(rs6280)多型はリスペリドンを用いた3報の研究で検討され,そのうち2報の研究でこの多型とリスペリドン治療反応性との有意な関連が報告された。②SLC6A4遺伝子の5-HTTLPR多型と抗うつ薬治療反応性が4報の研究で検討され,そのうち3報で有意な関連が報告された。また,28報の研究のうち,主として有害事象に焦点を当てた研究は15報同定された。この15報中の9報が,主要治療転帰としてリスペリドン使用者における高プロラクチン血症に焦点を当てたものであった。そのうち,CYP2D6遺伝子及びDRD2 Taq1A遺伝子多型の影響を検討した研究がそれぞれ7報及び5報であり,そのほとんどでそれぞれの遺伝子多型と高プロラクチン血症との間に有意な関連は認められなかった。他の有害事象(抗精神病薬誘発性体重増加,血圧,インスリン抵抗性)に焦点を当てた研究は8報同定された。薬物血中濃度と遺伝子多型の関連を検討した研究に関しては,リスペリドン投与者を対象とした4報の研究が同定された。

結論

ASD/ID(特に成人における)を対象としたゲノム薬理学研究数はいまだ限られたものである。ASD/ID治療におけるゲノム薬理学研究の臨床的妥当性と有効性に焦点を当てた更なる調査が必要である。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(吉田 和生)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。