Schizophreniaの名称変更の準備はできているか? 多様な関係者を対象としたアンケート調査

SCHIZOPHR RES, 238, 152-160, 2021 Are We Ready for a Name Change for Schizophrenia? A Survey of Multiple Stakeholders. Mesholam-Gately, R. I., Varca, N., Spitzer, C., et al.

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はじめに

神経生物学的基盤に対する理解と治療法のアプローチは劇的に進歩したものの,“schizophrenia”という名称は診断名として存続している。しかし,“schizophrenia(「分裂した精神」という意味がある)”という言葉は,その根底にある神経生物学や患者が経験する症状を正確に示すものではなく,単一の疾患であるかのような誤解を招く記述となっている。他にもスティグマなどの様々な弊害のため,精神保健の関係者の間では,“schizophrenia”という用語の名称変更が検討されている。

本プロジェクトの目的は,schizophreniaの名称変更の可能性について,精神保健関連従事者,研究者,精神疾患の患者,その家族,政府関係者,一般市民といった広く多様な関係者から意見を収集することである。

方法

本プロジェクトは,米国ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センター内マサチューセッツ精神保健センター公共精神部門における精神病研究プログラムの顧客諮問委員会を拠点として実施された。

参加者はオンライン,対人での勧誘,口コミにて除外基準を設けずに募集した。調査期間は2019年4月~2020年10月であった。調査票は5~10分程度の簡潔なもので,匿名の人口統計学的情報,schizophreniaという名称を変更すべきかどうか,またその名称がどの程度スティグマになっているか,九つの病名の代替案(“Altered Perception Syndrome”,“Attunement Disorder”,“Integration Disorder”,“Bleuler's Syndrome”,“Disconnectivity Syndrome”,“Dopamine Dysregulation Syndrome”,“Neuro-Emotional Integration Disorder”,“Psychosis Spectrum Syndrome”,“Salience Syndrome”)に対して1(全く好きではない)から5(非常に好きである)までの点数による評価といった設問が掲載され,コメント記入欄も設けられていた。

結果

回答は1,190名から収集された。平均年齢は45歳,年齢の範囲は11~87歳であった。約3分の2が女性で,人種は白人が84%,民族は非ヒスパニック系/ラテン系が94%であった。回答者の背景(重複回答あり)は精神病患者の家族(49%)が最も多く,次いで,精神保健関連従事者(47%),精神疾患の患(33%)であった。精神保健関連従事者の中では,心理士が33%と最も多いものの,社会福祉士(20%),精神科医(14%),ピアサポートの専門家(14%)など,他の臨床家からの回答も多く見られた。精神疾患の患者の大部分が,精神病の病歴を有していた(83%,全体の25%)。

Schizophreniaの名称変更については回答者の大多数(74.1%)が賛成であり,更にほとんどの回答者(71.4%)は,schizophreniaという名称はスティグマをもたらすものだと考えていた。Schizophreniaの代替案の評価は用語の説明の前後で行われたが,全代替案において説明後に好感度が上昇していた。提案された九つの代替案のうち,最も支持されたものはAltered Perception Syndrome,次にPsychosis Spectrum Syndrome,Neuro-Emotional Integration Disorderであり,最も支持されなかったものは,Bleuler's SyndromeとSalience Syndromeであった。

また,寄せられたコメントの中で,最もよく使われている言葉を視覚的に表現するためにワードクラウド(図)を作成した。

考察と結論

最も高い評価を受けたAltered Perception Syndromeについて,回答者は,この用語が自分自身や親族の体験を最もよく表していると感じたのかもしれないが,他の全てのグループでも最も高い評価を得ていた。この語の人気が高かったことから,一般の人々に情報を提供し,精神疾患患者の体験を正確に定義できるような名称変更を行うためには,障害を持つ人々のアイデアや意見を取り入れることが不可欠であることが示唆された。

最も人気のない別称は,Bleuler's SyndromeとSalience Syndromeであり,この二つの用語の評価は,説明がなされた後に有意に上昇したものの,説明の前後とも評価が低いことから,これらの用語と統合失調症の症状との関係が明瞭でないことが示唆される。

米国を拠点とするこの大規模な調査プロジェクトの結果は,schizophreniaの名称変更を求める機運が高まっていることを裏付けるものであり,今後の世界的な調査の予備調査となるかもしれない。

図.調査のコメント欄から生成されたワードクラウド

254号(No.2)2022年6月20日公開

(菊地 悠平)

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