気分障害及び精神病性障害における脳年齢: 系統的レビューとメタ解析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 42-55, 2022 Brain Age in Mood and Psychotic Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ballester, P. L., Romano, M. T., de Azevedo Cardoso, T., et al.

はじめに

気分障害や精神病性障害は,臨床的寛解と増悪を繰り返しながら慢性の経過をたどる傾向がある。統合失調症(SCZ),双極性障害(BD),うつ病(MDD)はいずれも加齢により臨床的な変化や脳の変化を示す。SCZでは陽性症状の改善と機能や認知機能の悪化を呈する。BDではエピソード間隔の短縮や,治療効果低下,併存疾患の増加,脳の皮質菲薄化と認知障害や認知症のリスク上昇が認められる。MDDでも再発を繰り返す症例があり,海馬体積の減少や,皮質菲薄化も起こる。

近年の神経画像研究により精神障害を持つ人々の脳年齢は予測と実際の年代の差が生じることが示唆され,脳年齢ギャップまたは脳・予測年齢差(brain-PAD)と呼ばれる。しかし,brain-PADの増大が精神疾患以外にもアルコールやタバコの使用量増加,知能低下,死亡リスク増加などと関連するという複雑な性質もあるため,気分障害や精神病性障害における脳の老化の加速の有無や程度については意見が分かれている。

そこで本研究の目的は,①脳の老化が気分障害や精神病性障害で促進されるかどうか,もしそうであるなら,②その程度を推定し比較すること,③brain-PADは年齢と共に増加する傾向にあるのかどうか,を調査することである。

方法

PRISMAガイドラインに従い,系統的レビューとメタ解析を実施した。検索条件は,(brain aging OR brain age) AND (mood disorders OR psychotic disorders OR major depressive disorder OR bipolar disorder OR schizophrenia OR psychosis)とした。18件が系統的レビューの対象となった。メタ解析では,3件の研究が情報不足であったため15件の研究を対象とした。

抽出したデータは,研究の目的,研究内容,デザイン,参加者の属性,サンプルサイズ,組み入れと除外基準,臨床評価,脳年齢についての主な結果,交絡因子とした。

統計解析には,Rとmetaパッケージを使用した。

結果

系統的レビューの結果,SCZまたは初回エピソード精神病を対象とした13研究(3,169症例)では,11研究で対照群に比較してbrain-PADは有意に増加していた。BDを対象とした6研究(938症例)では,有意差なし2研究,有意に増加しているという結果が3研究,内服薬により結果が異なるという1研究が見られた。MDDを対象とした7研究(3,565症例)のうち3研究は対照群に比較してbrain-PADの増加を報告し,4研究は有意差なしと報告しているが,統計学的有意性にかかわらず,含まれる全ての研究が,MDD群と対照群との間に正のbrain-PADの差を報告している。

メタ解析の結果,SCZと健常者のbrain-PADには固定効果モデル[平均差(MD)=2.90,95%信頼区間(CI):2.59-3.21,p<0.01],ランダム効果モデル(MD=3.08,95%CI:2.32-3.85,p<0.01),BDと健常者には固定効果モデル(MD=2.12,95%CI:1.46-2.77,p<0.01),ランダム効果モデル(MD=1.93,95%CI:0.53-3.34,p<0.01),MDDと健常者には固定効果モデル(MD=0.95,95%CI:0.55-1.35,p<0.01),ランダム効果モデル(MD=1.12,95%CI:0.41-1.83,p<0.01)のいずれにおいても有意差があり,その傾向はSCZ,BD,MDDの順であった。

診断群ごとにbrain-PADの差と年齢を変数にPearson相関係数を算出すると,全てで正の相関が確認された。その中で統計学的に有意であったのはSCZ[r(8)=0.697(0.120-0.922),p<0.03]及びMDD[r(4)=0.815(0.009-0.979),p<0.05]であり,BDは有意ではなかった[r(4)=0.213(-0.723-0.874),p=0.684]。

結論

SCZ,BD,MDDでは脳の老化が促進され,その傾向はSCZで最も大きく,次いでBD,MDDの順である。Brain-PADの差は高齢患者でより顕著であり,このことは疾病による負荷が大きな影響を与えていることを示唆している。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(内沼 虹衣菜)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。