うつ病患者の認知機能において,炎症マーカーによって電気痙攣療法の効果が予測できるかもしれない

NEUROPSYCHOBIOLOGY, 80, 493-501, 2021 Inflammatory Markers May Inform the Effects of Electroconvulsive Therapy on Cognition in Patients with Depression. Belge, J.-B., Diermen, L.V., Sabbe, B., et al.

背景

治療抵抗性うつ病患者において,電気痙攣療法(ECT)は50~70%の患者を改善させる効果的な治療選択肢である。認知機能障害はECTの副作用として知られているが,一過性で,ECT治療コースが終了してから数週間以内に改善すると言われている。

ECTにより引き起こされる認知機能障害の神経生理学的機序は謎であり,末梢の免疫系が認知機能のような複雑な神経機序を取り次ぐのではないかと示唆されており,その中でもインターロイキン(IL)-6,腫瘍壊死因子(TNF)-α,IL1-βが認知プロセスにおいて特別な機能を果たしている(海馬における記憶の形成や保持に極めて重要なシナプス可塑性の調節など)。更にIL-10は,末梢の免疫細胞の活動と脳内の免疫応答のバランスを制御することで,学習と記憶を促進していると思われる。

複数回のECT治療は長期間の炎症促進性サイトカインのダウンレギュレーションを実際に起こしているかもしれないが,免疫調節効果がECT後の急性認知機能欠損に関与しているかどうかははっきりしていない。本研究ではIL-6,TNF-α,IL1-β,IL-10のECT治療コース終了後の変化と認知機能の変化の関係を調査し,更にはこれらの炎症マーカーの基準時点の値が認知機能結果の予測因子になり得るかどうかを探索した。

方法

18~85歳で,大うつ病エピソードを持つ患者(双極性障害を含む)62名を対象として,抑うつ症状が寛解するまで,または3セッション連続でそれ以上改善しなくなるまで,週2回ECTを行った。

それぞれの検査・評価は基準時点(T1)とECT終了約1週間後(T2)に施行した。うつ病の症状評価にはハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-17)を用いた。認知機能検査として,言語エピソード記憶をホプキンス言語学習試験改訂版(Hopkins Verbal Learning Test-Revised:HVLT-R)で,処理速度を数字符号置換検査(Symbol Digit Substitution Task:SDST)で,逆行性健忘を自叙伝記憶インタビュー(Autobiographic Memory Interview:AMI)で評価した。

血液サンプルは二つの時点で採取し,サイトカイン(IL-6,TNF-α,IL1-β,IL-10)の血中濃度を測定した。それぞれのデータの変化量(T1-T2)を算出し,解析した。

結果

うつ病の症状はECTにより劇的に改善した。IL-6とIL1-βの濃度は低下し,HVLT-RとAMIの評点も有意に低下した。SDSTの評点は保たれていた。

IL-6濃度の低下とHVLT-R評点の低下には相関が見られた。全ての検査値・評価尺度の評点の変化には,性別,診断,治療状況などによる影響はなかった。しかし,認知機能評点は高齢患者において有意に障害されていた。更に,より多くのECT施行回数がAMI評点の減少に関わっていた。

基準時点においてIL-10濃度がより高いことが,ECT後のHVLT-Rの低下抑制を予測している可能性,つまりIL-10は言語記憶の成績の変化の重要な予測因子となる可能性がある。しかし他の炎症サイトカインの基準時点の値は,認知機能変化と相関していなかった。

結論

本研究では,ECT後の末梢のIL-6濃度と認知機能変化の間に関連があり,そのことは治療後の言語エピソード記憶低下とそれに付随して起きた末梢IL-6濃度の低下から示唆された。更には,本研究で初めて,基準時点のIL-10濃度がより高いことが,ECT後の言語エピソード記憶のより緩やかな低下を予測する可能性を示した。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(桐野 創)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。