治療抵抗性の単極性うつ病あるいは双極性うつ病に対する継続的磁気痙攣療法

J CLIN PSYCHIATRY, 82, 20m13677, 2021 Continuation Magnetic Seizure Therapy for Treatment-Resistant Unipolar or Bipolar Depression. Tang, V. M., Blumberger, D. M., Throop, A., et al.

はじめに

電気痙攣療法(ECT)は治療抵抗性うつ病に対して有効であることが示されている一方で,認知機能への悪影響に対する懸念や悪いイメージが治療上の障壁となっている。磁気痙攣療法(Magnetic Seizure Therapy:MST)は有効性が高く認知機能への悪影響が少ないことが報告されているが,長期間の治療効果に関する報告は乏しい。本研究の目的は,治療抵抗性の単極性うつ病あるいは双極性うつ病の患者に対してMSTを6ヶ月継続した結果を報告することである。

対象と治療手順

18~85歳で,DSM-Ⅳで診断された単極性うつ病または双極性うつ病で,ECTを目的に紹介された,24項目のハミルトンうつ病尺度(HDRS24)が21点以上の患者のうち,MSTを受けてうつ病が寛解または改善した患者にMSTを24週間継続して評価を行った。除外基準は,身体的または神経学的に不安定,妊娠中または授乳中,全身麻酔が行えない,ペースメーカー挿入中,人工内耳挿入中,植え込み式電子機器または金属機器挿入中,ロラゼパム換算で2mg/日以上のベンゾジアゼピン投与,抗痙攣薬を服薬中,物質依存,認知症やせん妄,6ヶ月以内の自殺企図,他の神経精神疾患の併存,反社会性パーソナリティ障害または境界性パーソナリティ障害の診断,とした。

MSTは,4週目までは週1回,その後の2ヶ月間は2週間に1回,次の2ヶ月間は3週間に1回,最後の4週間に1回行った。HDRS24の点数が患者ごとの寛解・改善の基準よりも高い状態が続いた際には,2週間以内に4回のブースターセッションを行った。内服薬は変更せず継続した。

評価項目

主要転帰は再燃率,副次転帰は見当識回復までの時間,認知機能,希死念慮とした。再燃の定義は,①HDRS24が21点以上でブースター治療に反応がない場合,②HDRS24が21点以上で研究から脱落した場合,③精神科入院,④躁転とした。

2,7,14,24週目にHDRS24,ベック自殺念慮尺度(Beck Scale for Suicidal Ideation:SSI)とヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale:YMRS)で評価を行った。自己記入式簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology-Self Report:QIDS-SR)による評価はMSTのセッションごとに行った。

24週のMST終了後に認知機能評価を行い,MST急性期治療前後に評価した認知機能と比較した。認知機能評価には自伝的記憶調査票短縮版(Autobiographical Memory Inventory-Short form:AMI-SF),Montreal Cognitive Assessment(MoCA),Trail Making Test B,Stroop Color and Word Test,Controlled Oral Word Association Test(COWAT),MATRICS Consensus Cognitive Batteryを用いた。ただし,MoCAは2,7,14,24週目に評価した。麻酔後の見当識回復までの時間は各セッション終了後に評価した。

統計

再燃までの時間はKaplan-Meier曲線で評価した。単極性うつ病と双極性うつ病の比較にはログランク検定,再燃と関連する因子の評価にはCox比例ハザードモデルを用い,認知機能の変化は反復測定分散分析(RM-ANOVA)を用いて評価した。

結果

30名(単極性うつ病23名,双極性うつ病7名)の患者が解析に組み入れられた。24週間の観察期間中に再燃したのは10名(33.3%)であり,単極性うつ病で7名(30.4%),双極性うつ病で3名(42.9%)であり,両群で差は認められなかった。また,再燃と有意な関連のある危険因子は認められなかった。15名の患者がブースターセッションを受けた。治療の不安(3名),再燃の基準に合致しない抑うつ気分の悪化(2名),筋肉痛及び頭痛(1名),記憶障害の訴え(1名)といった理由で,合計7名が脱落した。躁転は1名に見られた。再燃までの期間の平均は10.4週であった。

急性期治療後に希死念慮が消失した17名では,24週後または最後の評価時点まで希死念慮は見られなかった。

認知機能に関しては,一部の例外を除いて有意な変化は認められなかった。

見当識回復までの時間の平均は最初のMSTセッションで18.6分,最後のセッションで14.3分であり,有意な差は認められなかった。

結論

本研究では,MSTの維持治療を受けた患者のうち2/3では再燃が認められず,認知機能への悪影響も認められなかった。今後は大規模研究やECTとの比較研究が望まれる。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(石田 琢人)

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