ドイツの一般診療所で追跡調査された単極性うつ病患者138,097名の治療パターンに対する年齢の影響

J PSYCHIATR RES, 144, 208-216, 2021 Age Effects on Treatment Patterns in 138,097 Patients With Unipolar Depression Followed in General Practices in Germany. Mössinger, H., Kostev, K.

背景と目的

うつ病は世界的に社会負担の大きな疾患と言われている。関連する危険因子や併存疾患は年齢によって異なるため,患者にとって適切な抗うつ薬を選択する際にはこれらを考慮しなければならないが,これまでに症状の違いや重症度に焦点を当てた先行研究はあるものの,幅広い年齢層を対象とした研究は不足している。本研究の目的は,診断時の患者の年齢が,処方される抗うつ薬の種類に影響を与えるかどうかを調査することである。

方法

本研究は後方視的コホート研究で,全国データベースである疾患解析データベース(IQVIA)のデータを使用した。2015年1月~2018年12月にドイツ国内の1,188の一般診療所で初めてうつ病と診断を受け,その前後で少なくとも12ヶ月の観察期間を有する138,097名の患者を対象とした。患者を18~30歳,31~65歳,66歳以上の年齢群に分類して比較した。これらの年齢群において,医師の種類,性別,保険の種類の分布は同等であった。

主要転帰は,各年齢群ごとの,抗うつ薬の処方を受けている患者の割合,及び処方されている治療薬の割合とした。性別,保険の種類,治療場所,チャールソン併存疾患指数(Charlson-Comorbidity-Index)で調整したオッズ比(OR)を用いて,年齢群による抗うつ薬クラス及び個別の治療薬の処方を受ける確率の差を評価した。年齢群との関連を推定するため,多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。

結果

全体の患者数138,097名のうち,13,553名(9.8%)が18~30歳,82,524名(59.8%)が31~65歳,42,020名(30.4%)が66歳以上であった。

抗うつ薬を服薬している患者は半数未満で,18~30歳で4,717名(34.8%),31~65歳で35,014名(42.4%),65歳以上で20,294名(48.3%)であった。31~65歳の患者と比べると18~30歳の患者は治療を受ける割合が低く[OR=0.73,95%信頼区間(CI):0.71-0.77,p<0.0001],66歳以上の患者は治療を受ける割合が高かった(OR=1.21,95%CI:1.18-1.24,p<0.0001)。

全体では三・四環系(TTC)抗うつ薬が最も多く処方され,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が次いだ。TTCは66歳以上(65.8%),31~65歳(59.0%)の患者群で最も多く処方されており,SSRI及びSNRIは18~30歳の患者群で最も多く処方されていた(55.5%)。調整ORでも,31~65歳の患者と比べると,66歳以上の患者ではTTCの処方割合が高く(OR=1.3,95%CI:1.26-1.34,p<0.0001),18~30歳の患者ではSSRI及びSNRIの処方割合が高かった(OR=1.23,95%CI:1.16-1.30,p<0.0001)。

考察

本研究では,65歳以上ではTTCが,18~30歳ではSSRIとSNRIが主流であった。先行研究では,TTCやSSRI等の抗うつ薬治療の効果は各年齢層で同等であるものの,副作用特性は大きく異なることが示されており,適切な抗うつ薬を選択する際には考慮する必要がある。今回の年齢層による処方の違いは,副作用の相対的リスクや忍容性の違いが影響したことが可能性として考えられる。

本研究の対象者は,31~65歳の年齢層の患者が多かったが,これは年齢と共に不利なライフイベントが蓄積され生涯有病率が上昇するためと考えられる。また,半数以上が「特定不能」のうつ病であり,重症度は評価できず,更に軽症うつ病に対しては最初の介入として薬物治療は推奨されず,非薬物療法の情報はデータベースに含まれていないため,「未治療」患者のサンプルの大きさが過大評価されることになる。ほかに,地域によって治療アプローチが異なること,医師の経験の情報も不足していることが本研究の限界として挙げられる。

今後は,併存疾患や重症度が均質な年齢層での処方に関して更なる研究が望まれる。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(高橋 希衣)

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