うつ病における若年者と高齢者の脳構造の座標軸的なネットワークマッピング:系統的レビューとメタ解析

AM J PSYCHIATRY, 178, 1119-1128, 2021 Coordinate-Based Network Mapping of Brain Structure in Major Depressive Disorder in Younger and Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Zhukovsky, P., Anderson, J. A. E., Coughlan, G., et al.

背景

うつ病(MDD)における脳の構造的変化の報告は非常に不均一である。多くのMDDの研究は,若年~中年の成人を対象としたものである。後期うつ病(LLD)は55歳以上の成人におけるMDDと定義されており,脳血管障害やアルツハイマー病と関連がある。また,LLDはうつ病歴のある早発型LLDと高齢初発である遅発型LLDに分けられ,遅発型LLDはMDDとは別の疾患として検討されるべきという意見もある。

MDDやLLDの脳の構造的変化を検討する場合に障壁となっているのは,臨床的な特徴,うつ病の生物学的タイプ,また方法論の違いなどのために異質性が高くなっていることである。たとえば,MDDではMDDの影響を受けている脳の一部の領域における容積や皮質厚の大きさが抗うつ薬への反応と関連している。LLDでは発症年齢により病因や転帰が異なる可能性もある。

本研究の目的は,系統的レビューとメタ解析を行って,若年~中年のMDDと高齢LLDにおいて障害されているネットワークを明らかにすることである。

方法

2020年10月までに発表された,MDDまたはLLDと対照群とを比較したボクセルベース及び表面ベースの構造研究を対象とした。対象者の平均年齢が55歳以上の研究をLLDに分類した。

Activation likelihood estimation(ALE)分析と座標ベースのネットワークマッピングにより,MDDとLLDで障害のある脳回路を同定した。また,メタ回帰分析により,LLD患者における発症年齢の影響と,MDD患者における抗うつ薬治療の影響を検討した。

結果

合計143報,145解析が含まれた。合計対象者数は14,318名で,MDDが6,362名,LLDが535名,対照群が7,421名であった。128解析がMDD,17解析がLLDと対照群の比較研究であった。

ALE分析ではこれまでの知見と同様に,MDDで左右の海馬傍回(Z=5.2,pFWE<0.001)と前帯状回(Z=4.5,pFWE<0.001),LLDで前帯状回と内側前頭前野(Z=3.7,pFWE<0.001)が影響を受けていることが明らかになった。座標ベースのネットワークマッピングでは,MDDとLLDのグループ平均ネットワークマップは類似しており,両群とも前頭頭頂葉,背側注意,視覚ネットワークに違いが認められた。

メタ回帰分析ではLLDにおいて発症年齢が高いと広範囲の構造異常があり,遅発型LLDでは早発型LLDに対して前頭頭頂葉・背側・腹側の注意及び視覚ネットワークの障害がより認められた。MDDでは抗うつ薬を服薬している患者が多い研究ほど,より前帯状皮質と背外側前頭前野を含むネットワークでの異常が示された(pFWE<0.05)。

考察

下前頭回は,ALEとネットワークマッピングの両方で一貫してMDDとの関連が見られた。線条体及び海馬の領域は,ALEのみでMDDとの関連が見られた。

LLDでは,研究数が比較的少ないにもかかわらず,早発・遅発の混合型LLD研究に比べ,遅発型のみのLLD研究で前頭頭頂葉,背側注意,視覚ネットワークで大きな障害があることがわかった。遅発型LLDに特徴的なネットワークの異常は認知機能低下や認知症のリスクと関連している可能性がある。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(岩田 祐輔)

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