前頭前皮質とうつ病

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 225-246, 2022 Prefrontal Cortex and Depression. Pizzagalli, D. A., Roberts, A. C.

抑うつの表現型を生物学的により扱いやすい次元に分解することは,うつ病(MDD)の理解を深めるためのまたとない機会となる。この枠組みの中で,本論文では,抑うつ状態における前頭前皮質(PFC)の重要な役割に焦点を当てて,臨床的な文献をレビューする。特に神経画像研究では,機能的活動,安静状態,構造的完全性における変化が明らかにされ,MDDの神経相関について重要な洞察が得られている。

MDDでは,内側前頭前皮質(mPFC),特に前帯状皮質(ACC)の様々な下位区分が構造的に減少する。一方で最近のメタ解析は,MDDに関連する構造異常は驚くほど少ないことを明らかにしたが,これにはMDDの異種性が関与するかもしれない。また,いくつかの異常はMDDにおける経過の初期から現われ,リスクマーカーとなり得ることも示されている。

MDDにおける報酬処理機能障害は,誘因動機づけ(報酬予測),評価(報酬消費),報酬学習というサブドメインに分かれ,前線条体の異常と関連していることが報告されている。サブドメインを精査する研究を包括すると,最終的に,脳報酬経路のノード内の活性化及びノード間の機能的結合の途絶に焦点を当てることに収束する。報酬系領域全体で,MDDは腹側及び背側線条体領域,前庭及び背側ACC領域,中央及び内側眼窩前頭皮質(OFC)内の報酬関連のキューに対する活性鈍化に関連している。

ネガティブな処理の偏りについては,様々な辺縁系/傍辺縁系領域,特に前部前帯状皮質(pgACC)と前帯状皮質膝下部(sgACC)(及び扁桃体)の過活動を伴うことが報告されている。このような過敏反応は,背外側前頭前皮質(dlPFC)や背側前帯状皮質(dACC)といった,認知制御や情動調節に強く関与する領域の障害と結びついており,また,①情動の認知制御[背内側前頭前皮質(dmPFC)]と扁桃体(結合低下),②ネガティブな自己言及情報の処理[腹内側前頭前皮質(vmPFC)]と扁桃体(結合上昇)に関与するPFC領域の結合阻害にも反映されている。

MDDにおける,経験によって得られた無力感(及びそれに関連する制御可能性の構成要素)や絶望の神経相関を調べた研究はほとんどない。MDDの遂行機能障害におけるPFC異常の役割についてはこれまでもレビューされており,最近の報告はその知見の再現のみである。

MDDにおけるPFCの機能障害は,膨大な数の文献によって強く支持されており,多くのPFC領域にまたがる機能的・構造的・システムレベルの異常が明らかにされている。今後,深層学習や人工ニューラルネットワークを用いた診断や治療効果予測など,計算精神医学的アプローチによって,特に正確な心理的構造を分離するための実験デザインの改善と相まって,更なる解明が進むことが期待される。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(櫻井 準)

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