思春期のうつ病患者の性機能:前方視的研究

J CLIN PSYCHIATRY, 82, 21m13892, 2021 Sexual Functioning in Adolescents With Major Depressive Disorder: A Prospective Study. Shultz, E. D., Mills, J. A., Ellingrod, V. L., et al.

背景と目的

思春期のうつ病患者の性機能についての報告はほとんどない。成人では,うつ病患者の女性の40%,男性の30%が性機能障害を有すると言われるが,抗うつ薬が交絡となっている可能性があるため,うつ病と性機能障害の関係は複雑である。また,成人では,抗うつ薬による性機能障害の副作用を緩和する遺伝子多様体についての報告がなされている。

それらの先行研究を踏まえ,今回著者らは,思春期後半のうつ病患者を2年間追跡し,抑うつや不安の重症度と性機能障害との関連を調べ,更に特定の遺伝子多様体が,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による性機能障害を緩和するか否かについて検証した。

方法

2010年9月~2014年12月の期間に,未投薬またはSSRIによる治療開始から1ヶ月以内の,15~20歳の患者を研究に組み入れた。全ての参加者に対し,2年間にわたり4ヶ月おきにベックうつ病質問票-Ⅱ(BDI-Ⅱ)及びベック不安質問票(Beck Anxiety Inventory:BAI)による抑うつ及び不安の評価を行い,向精神薬や避妊薬やアルコールの使用状況を確認した。なお,精神科診断はDSM-Ⅳに準拠した。性機能については,14項目から成る自記式尺度であるChanges in Sexual Functioning Questionnaire(CSFQ;注:得点が高いほど性機能が良好であることを示す)を用い,喜び,欲求頻度,関心,性的興奮,オーガズムの五つの領域における性機能を評価した。更に,HTR2AABCB1の遺伝子多様体に着目し,それぞれの多型を検出した。

最後に,線形混合効果モデルを用い,抑うつ及び不安の重症度と性機能障害との関係,SSRIの用量と性機能障害との関係を解析した。

結果

解析対象となった263名のうち,156名(59%)が女性で,そのうち77名が避妊薬を服薬していた。平均年齢は18.9±1.6歳で,うつ病が185名(70%),全般不安症が79名(30%),社交不安症が72名(27%),パニック症が18名(7%)であった。年齢,性別,研究参加期間などの共変量で調整すると,BDI-Ⅱの得点が高いほど,CSFQの得点が有意に低くなり(β=-0.13,p<0.0001),下位項目では特に性的興奮(β=-0.03,p<0.003),オーガズム(β=-0.03,p<0.002),喜び(β=-0.03,p<0.0001)で有意な関連が見られた。一方,SSRIの用量が多いことは,下位項目のうちオーガズムの低下(β=-0.30,p<0.03)とのみ有意な関連を示した。BAIの得点とCSFQの得点の関連も同様の傾向を示したものの,BDI-ⅡとBAIを,他の共変量と共に同時に混合モデルに入れると,BDI-Ⅱのみが性機能と関連を示した(β=-0.11,p<0.003)。

分析を女性に限ると,抑うつの重症度と性機能障害の関連が同様に確認され(β=-0.11,p<0.02),更に避妊薬の使用は,独立してCSFQの高値と有意に関連した(β=0.97,p<0.003)。

HTR2A及びABCB1の遺伝子多様体と性機能障害の間には,有意な関連は認められなかった。

考察

思春期患者では,不安よりは抑うつの重症度が性機能障害と関連した。また,SSRIの服薬は,思春期患者のオーガズムの減退と関連していた。この結果は,セロトニンを介したオーガズムの調整機構に基づいてSSRIが早漏の治療に用いられることを考えれば,妥当な結果である。更に,避妊薬の服薬は良好な性機能と関連することが示されたが,この結果も,経口避妊薬を中止した思春期女性の性的関心の減退を報告した先行研究の結果と一致する。

今回の研究では,先行研究とは異なり,遺伝子多様体と性機能障害との間に関連は認められなかったが,これは研究デザインや研究参加者の人種・民族の違いに由来するのかもしれない。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(荻野 宏行)

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