甲状腺機能低下症と臨床的うつ病との関連:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 78, 1375-1383, 2021 Association of Hypothyroidism and Clinical Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Bode, H., Ivens, B., Bschor, T., et al.

背景

甲状腺機能低下症は,うつ病の強い危険因子と見なされている。甲状腺機能低下症とうつ病の症状は重複している部分があり,自己免疫性甲状腺炎の20%以上がうつ病を経験するという2018年のメタ解析の報告もある。しかし,甲状腺機能低下症とうつ病は本当に関連しているのか,どの程度の関連があるのかは明らかではない。関連があるとしても,甲状腺機能低下と関連するのか,自己免疫性と関連するのかもはっきりしていない。著者らは,地域住民において,甲状腺機能低下症と臨床的うつ病の関連を調べることを目的に調査を行った。

方法

甲状腺機能低下症と臨床的うつ病との関連を調べるために,PubMed,PsycINFO,Embaseデータベースを利用し,疫学研究及び地域住民研究を同定して系統的レビューを行った。甲状腺障害は,潜在性[遊離チロキシン(fT4)正常,甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値]・顕性(fT4低値,TSH高値)・自己免疫性[甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体陽性]を対象とし,Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D),Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS-D),Patient Health Questionnaire 9(PHQ-9)などのうつ病評価尺度や臨床評価による臨床的うつ病を転帰とした。

結果

4,350の論文をスクリーニングし,25件の研究が解析対象となった。25件の研究の参加者348,014名(平均年齢44.9歳,女性53.6%)のうち,68%が6件のコホート研究に,32%が19件の横断研究に含まれた。

解析の結果,甲状腺機能低下症と臨床的うつ病のオッズ比(OR)は1.30[95%信頼区間(CI):1.08-1.57]であり,関連が示された。甲状腺ホルモンが正常である潜在性甲状腺機能低下症では,ORは1.13(95%CI:1.01-1.28)とほとんど関連が示されなかったが,甲状腺ホルモンが低下した顕性甲状腺機能低下症では,ORが1.77(95%CI:1.13-2.77)と明らかな関連が認められた。自己免疫性を示すTPO抗体陽性例では,ORが1.24(95%CI:0.89-1.74)と軽微な関連であった。

事後解析では,甲状腺機能低下症の女性ではうつ病との関連が強く(OR:1.48,95%CI:1.18-1.85),男性でのORは0.71(95%CI:0.40-1.25)であり,明らかな性差が認められた。

考察

本研究では,他の研究結果ほどの甲状腺機能低下症とうつ病との強い関連は示されなかった。強い関連があるという概念自体を見直す時期であるかもしれないが,甲状腺機能低下症とうつ病の併存を否定することもできない。TPO抗体陽性とうつ病との関連は認められなかったため,自己免疫性の存在よりも,甲状腺ホルモン低値による視床下部‐下垂体‐副腎系の障害との関連を考える方が妥当である。

結果から言えることは,甲状腺ホルモンが低下している顕性及び女性の甲状腺機能低下症では,明らかな臨床的うつ病との関連が示されており,注意が必要であるということである。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(石﨑 潤子)

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