Covid-19パンデミック下における医師のうつ病及び不安症の世界的な有病率:系統的レビューとメタ解析

J AFFECT DISORD, 298, 431-441, 2022 The Global Prevalence of Depression and Anxiety Among Doctors During the Covid-19 Pandemic: Systematic Review and Meta-Analysis. Johns, G., Samuel, V., Freemantle, L., et al.

背景

世界保健機関(WHO)により,新型コロナウイルスの発生が,国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)であると宣言され,過去に類のない拡散防止対策が世界各地で取られている。今回のパンデミックでは医療従事者に世界的な仕事の要求度の増加が生じ得ることが懸念され,地域によっては不十分な人員配置や資金不足が医療者へのストレスに拍車をかけている可能性がある。

本研究の目的は,COVID-19パンデミック下における医師のうつ病及び不安症の世界的な有病率と,それらの有病率の違いを説明できる要因について,パンデミック初年度から集められるエビデンスを分析し,明らかにすることである。

方法

本研究では,PRISMA及びMOOSEガイドラインに沿って無作為化対照試験の系統的レビュー及びメタ解析を実施した。採択基準は以下の通りとした。①標準化及び検証された評価尺度を使用し,抑うつ及び/または全般的な不安症状が評価されている。②COVID-19パンデミック中に実施されている。③世界中のあらゆる専門分野で働く医師を対象としている。

主要評価項目は,パンデミック期間中に医師がうつ病及び/または不安症を発症した症例の総数とし,それらは上記の評価尺度を用いて事前に設定された閾値以上となった人数で決定された。

各研究におけるバイアスのリスクと確実性についてはそれぞれ,有病率調査ツールのためのJoanna Briggs Inventory (JBI) ChecklistとGRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)systemを用いて評価した。

研究の質とデザイン(評価尺度,調査時期,重症度の閾値)の影響を探るため,感度分析を行った。調査時期は,パンデミックの最初の3ヶ月(2020年1~3月)と,2020年4月以降に分割した。JD-Rモデルに沿ってサブグループ解析を行い,パンデミック時の転帰の不均質性を説明する仕事の要求度と資源のバラつきの可能性を分析した。各研究の仕事の要求度と資源の潜在的な指標として,人口1人当たりのGDP(国内総生産)と人口1万人当たりの医師数を使用した。1人当たりのGDPは,1万ドル未満,1万~1万5,000ドル,2万5,000ドル以上の3群に分類し,人口1万人当たりの医師数は,15.5人未満,15.5~19人,20~29人,30人以上の4群に分類した。

結果

合計2,359件の研究が同定され,その中で全文取得可能であり,採択基準,除外基準を満たす研究55件が組み入れられた。そのうち,バイアスのリスクが高い22件が除外され,一次解析には33件の研究が含まれた。内訳は,不安症とうつ病の両方を含むものが23件,不安症のみが7件,うつ病のみが3件となった。

うつ病に関連する26件の研究の参加者31,447名における有病率は20.5%[95%信頼区間(CI):16.0-25.3%]であり,不安症に関連する30件の研究の参加者33,281名における有病率は25.8%(95%CI:20.4-31.5%)であった。

感度分析では,群間での有病率の異質性が有意であったのは,不安症の評価尺度(p=0.034),調査時期(p=0.038),重症度の閾値(p=0.013)による解析を行った場合であった。うつ病では,群間で有病率の異質性が有意であった研究デザインはなかった。

サブグループ解析では,群間での有病率の異質性が有意であったのは,うつ病では1人当たりのGDP(p=0.014),不安症においては1万人当たりの医師数(p=0.003)によって解析を行った場合であった。また,うつ病と不安症の両方で,地理的地域によって有病率の有意な異質性は確認できなかった。

結論

この系統的レビューとメタ解析では,COVID-19のパンデミック最初の12ヶ月間の医師におけるうつ病と不安症の世界的な有病率の包括的な分析を行った。医師のうつ病と不安症の有病率は一般集団に対して行った先行研究と比較して高値であるが,同一集団のパンデミック前のレベルと比較すると有意な上昇は確認されなかった。また,研究デザインの違いと仕事の要求度のバラつきは,観察された不均質性の一部を説明している可能性がある。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(渡邉 慎太郎)

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