双極性障害うつ病相におけるミトコンドリア機能障害標的薬の効果の比較検討:頻度論的推定及びベイズ推定を用いたネットワークメタ解析

PSYCHOPHARMACOLOGY, 238, 3347-3356, 2021 Comparative Efficacy of Mitochondrial Agents for Bipolar Disorder During Depressive Episodes: A Network Meta-Analysis Using Frequentist and Bayesian Approaches. Maiti, R., Mishra, A., Mishra, B. R., et al.

背景

双極性障害は罹病率が1%程度の慢性的な精神疾患として知られている。気分安定薬や抗精神病薬が躁状態の治療に効果的である一方で,抑うつ状態への治療は十分に確立されていない。抗うつ薬,特にその単剤治療は躁転を引き起こすリスクもある。双極性障害の抑うつ状態の明確な病態はまだ解明されていないが,それでも炎症,神経変性,ミトコンドリア機能の障害などが生物学的な疾患背景として明らかにされてきた。特にミトコンドリアの機能障害は複数の視点から明らかにされており,これは双極性障害においてミトコンドリア機能が治療対象になる可能性を示唆している。

双極性障害へのメタ解析はいくつか行われてきてはいるが,そのどれもが決定打に欠け,また矛盾する所見も認められており,治療法を確立する妨げとなっている。そこで著者らは,臨床的にも意義のある,複数の治療を組み込んだメタ解析を行った。本ネットワークメタ解析では,ミトコンドリアに有効な薬剤が双極性障害の抑うつ状態にどれほど有効かを明らかにすることを目的とした。

方法

2021年3月31日までに公表された,18歳以上の双極性障害うつ病相の患者に対するミトコンドリア機能障害標的薬[N-アセチルシステイン(NAC),コエンザイムQ10(CoQ10), α-リポ酸(ALA),アセチル-L-カルニチン(ALCAR),クレアチン一水和物,S-アデノシルメチオニン,メラトニン,ピリミジン,クロリン,ビタミンA,ビタミンC,ビタミンD,ビタミンE,葉酸]の効果を検討した無作為化対照試験(RCT)を検索し,メタ解析を行った。治療としては,ミトコンドリア機能障害標的薬単剤もしくは気分安定薬との併用のどちらも組み入れた。対照群としては,プラセボ及び気分安定薬による標準治療を行っているものを選択した。

治療効果はモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)もしくはハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)による治療前後の抑うつ症状の変化量で判定した。

頻度論的推定及びベイズ推定を用いて,介入によるエフェクトサイズの推定を行った。その後,ネットワークグラフを作成し,P-スコア及びSurface under the cumulative ranking(SUCRA)スコアを用いて,治療ごとのランク付けを行った。

結果

探索の結果,904名の双極性障害患者から成る,15報のRCTが本ネットワークメタ解析に組み入れられた。

検定を行った結果,NACで最も大きな効果が見られ,次に,CoQ10,ALA+ALCAR併用療法が大きな効果を示した。ベイズ推定ではプラセボと比較して有意な効果を示す薬剤は認められなかったが,頻度論的推定ではNACのみプラセボと比較して有意な抑うつ症状の改善効果を示した[効果予測(effect estimate):-1.18,95%信頼区間:-2.05--0.31]。

考察

本研究はミトコンドリア機能障害標的薬を対象にしたネットワークメタ解析である。最も大きなエフェクトサイズを示したのはNACであり,NACが唯一プラセボとの有意な改善効果を示すものであった一方で,他の薬剤は双極性障害の抑うつ症状に対して効果を示さなかった。

本研究は異質性が非常に高く,その背景としてはデータ数が非常に少ないことが挙げられる。多くの対象薬剤の比較は1件の臨床研究に基づいていることもあり,比較検討を行う対象薬剤の数に比して組み入れた論文数が少ないことは大きな限界である。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(和田 真孝)

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