産後のアンヘドニア:単極性うつ病と双極性うつ病における出現パターン

PSYCHIATRY RES, 306, 114274, 2021 Postpartum Anhedonia: Emergent Patterns in Bipolar and Unipolar Depression. Gollan, J. K., Yang, A., Ciolino, J. D., et al.

背景

産後の気分障害は頻度が高く,12ヶ月の有病率は単極性うつ病で9%,双極性障害で2.9%とされている。アンヘドニアは報酬系の障害による興味または喜びの低下と定義される症状で,重症の治療抵抗性うつ病や自殺と関係し,治療反応性の負の予測因子である。アンヘドニアはうつ病患者の最大約30%,双極性障害患者の最大約50%に認められるとされているが,うつ病または双極性障害を伴う妊婦が,産後にどの程度アンヘドニアを呈するかを予測することは困難である。そこで本研究では,うつ病または双極性障害と診断されている女性における,産後のアンヘドニアの縦断的経過の違いを明らかにすることを目的とした。

方法

本研究は,母親の気分障害が産後の母子の機能に与える影響について探索した二つの研究の二次解析である。

妊娠20週目に単極性(136名)または双極性(104名)うつ病と診断された女性参加者(18~44歳)を対象に,産後2,12,26,52週目に臨床面接による評価を実施した。アンヘドニアは29項目のStructured Interview Guide for the Hamilton Depression Rating Scale(SIGH-ADS)の項目H2(仕事への興味の喪失)と項目A1(社会的交流への興味の喪失)で測定し,症状の有無を二値化した。

セミパラメトリックな手法によるグループベースの混合モデルを用いて,アンヘドニアの縦断的経過のパターンを分離した。

結果

参加者は平均28.7歳(±6.12歳)で,白人(75.0%),アフリカ系米国人(20.4%)の順に多かった。双極性障害と診断された女性は,単極性うつ病と診断された女性よりも有意に若く,白人,未婚,低学歴,無職の割合が多かった。

参加者全体では,産後2週目に約1/5の参加者がアンヘドニアを呈し(18.60%),産後12週目にやや減少し(16.17%),その後26週目(19.46%)と52週目(22.22%)には再び約1/5となった。研究期間を通して,アンヘドニアを報告した女性は,単極性うつ病(39.47%)と比較して双極性うつ病(65.03%)の診断を受けた女性でおよそ2倍多かった。

なお,うつ病の重症度は,アンヘドニアのある女性で有意に高く,SIGH-ADS の評点は2〜3倍高であった。単極性うつ病と双極性うつ病の女性の間で,アンヘドニアを呈する確率が低い軌跡をとる群の割合に有意差はなかった(単極性うつ病71.9% vs双極性うつ病 64.1%)。

双極性うつ病の女性では,産後にアンヘドニアを呈する確率は安定して推移した。約1/3(35.9%)の参加者は,0.70~0.85の間の高い確率で推移し,残りの2/3(64.1%)の参加者は0.10前後の低い確率の軌跡に分類された。単極性うつ病群でもアンヘドニアを呈する確率は二つの軌跡で表され,大多数(71.92%)は,アンヘドニアの確率が非常に低い(0.10未満)軌跡に分類された。残りの1/4(28.1%)の女性は,産後,アンヘドニアの確率が経時的に上昇する群に分類され,2週目の0.25から52週目には0.60まで上昇した。

結論

産後のアンヘドニアは,単極性うつ病に比べ,双極性障害の女性において,頻度も安定性も高かった。

本研究の限界として,データが米国中西部で収集されたため結果を一般化できない可能性があること,薬剤の使用が統制されていないことなどが挙げられる。

今後,産後のアンヘドニアがどのようなメカニズムで生じるのかを明らかにすることが期待される。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(谷 英明)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。