アルツハイマー病において将来的な認知機能低下を予測するツールとしての[18F]THK5317を用いたタウPET画像検査

MOL PSYCHIATRY, 26, 5875-5887, 2021 [18F]THK5317 Imaging as a Tool for Predicting Prospective Cognitive Decline in Alzheimer’s Disease. Chiotis, K., Savitcheva, I., Poulakis, K., et al.

背景

アルツハイマー病(AD)の病理学的な特徴は,老人斑(アミロイドβタンパクの神経細胞外への沈着)及び神経原線維変化(タウタンパクの神経細胞内への蓄積)である。近年,陽電子放出断層撮影(PET)でタウのトレーサーが開発され,AD患者を対象とした横断研究ではその有用性が示されてきた。また,アミロイドβの生物学的マーカーの所見は,軽度認知障害(MCI)患者の将来的な認知機能低下を予測できないことが縦断研究で示されてきた。ここで,本研究では第一世代タウPET製剤[18F]THK5317を用いたPET検査が将来的な認知機能低下を予測できるかどうかについて,AD患者を対象として縦断的に評価した。

方法

過去に,基準時点の検査としてミニメンタルステイト検査(Mini-Mental State Examination:MMSE)を含む認知機能検査,及び[18F]THK5317,[11C]PIB,[18F]FDGをトレーサーとしたPET検査,T1強調頭部核磁気共鳴画像(MRI),髄液検査を施行されていた20名のAD患者が,本縦断研究に組み込まれた。20名のうち,9名はADによる認知症(臨床的にprobable ADで,[11C]PIB PETが陽性),11名はADによるMCI(記憶障害があり,複数のドメインに認知機能障害があるMCIで,[11C]PIB PETが陽性)であった。平均48.02ヶ月(32.04~56.33ヶ月)後に,MMSE評点を追跡した(1名の死亡例を除く)。MMSE評点の減少が1.5/年以上である場合を,認知機能低下と定義した。

基準時点での指標(各々のPETトレーサーの局所での結合あるいは取り込み,認知機能検査,髄液検査所見,頭部MRI画像での萎縮度)による将来的な認知機能低下の予測能を評価するために,曲線下面積(AUC)を求めた。

結果

9名(7名のADによるMCIと,2名のADによる認知症)で認知機能は安定しており,11名(4名のADによるMCIと,7名のADによる認知症)で認知機能低下が見られた。

基準時点における[18F]THK5317の側頭葉での結合が,将来の認知機能低下を予測する上で最も精度が高く[AUC(SE):下側頭回0.96(0.04),中側頭回1.00(0.00)](図),MMSE評点の低下率と強い相関が見られた[推定β値(SE):下側頭回-32.30(6.47),中側頭回-33.92(7.82);p<0.05]。一方で,他の指標については,予測能の精度が低く(AUC:0.58~0.77),MMSE評点の低下率との相関も見られなかった(推定β値:-4.64~15.78,p>0.05)。また,基準時点の[18F]THK5317の側頭頭頂葉での結合及び髄液中のタウマーカーは,基準時点よりも追跡時点のMMSE評点とより強く相関した(p<0.05)。

結論

タウ沈着と認知機能障害の間には時間的な乖離が存在する可能性が示唆された。また,[18F]THK5317を用いたPET検査は,他のアミロイドβの指標などと比較して,将来の認知機能低下を予測するのに有用である可能性がある。

図.基準時点の[18F]THK5317の結合が認知機能の経時的な低下を検出する精度(認知機能が安定していた群と認知機能が低下した群の比較)

254号(No.2)2022年6月20日公開

(黒瀬 心)

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