アフリカ,アジア,南米・北米の61ヶ国の12~15歳の青少年における複数回の自殺企図の有病率と相関因子

J PSYCHIATR RES, 144, 45-53, 2021 Prevalence and Correlates of Multiple Suicide Attempts Among Adolescents Aged 12–15 Years from 61 Countries in Africa, Asia, and the Americas. Smith, L., Shin, J. I., Carmichael, C., et al.

背景

毎年70万人以上が自殺で死亡していると言われており,自殺は,世界中で15~19歳の若者の死因では第4位となっている。自殺の77%は経済的に低い環境で発生しており,自殺による死亡の最も重要な危険因子の一つは,過去の自殺企図であると言われている。実際に,生涯の自殺企図回数が多いほど自殺完遂のリスクは高くなり,少なくとも1回の過去の自殺企図の既往があれば,自殺完遂のリスクは50~100倍高くなる。

青少年における複数回の自殺企図の相関因子についての文献はあるものの,単一の国のデータしか利用できないことや,サンプル数が比較的小さいという限界があることから,特に世界的な観点での情報はほとんど知られていない。従って,複数国にわたるデータと人口代表サンプルを用いた更なる研究が必要である。

本研究の目的は,世界保健機関(WHO)の5地域[アフリカ地域(AFR),アメリカ地域(AMR),東地中海地域(EMR),東南アジア地域(SEAR),西太平洋地域(WPR)]の61ヶ国,12~15歳の青少年162,994名を対象に,17項目の推定上の身体・行動・社会相関因子と複数回の自殺企図との関連を調査することにある。適切な介入と政策に対して情報を提供するためにも,複数回の自殺企図の相関因子を同定することは重要である。

方法

Global school-based Student Health Survey(2009~2017)のデータを分析した。複数回の自殺企図の定義は,過去12ヶ月間に少なくとも2回自殺企図があったこととした。過去の文献に基づいて,複数の自殺企図と潜在的な関連を調べるため合計17の相関因子[年齢,性別,飢え(社会経済的状況の指標),喫煙,アルコール摂取,大麻使用,アンフェタミン使用,ファストフードの摂取,炭酸飲料(ダイエット飲料を除く)の摂取,身体活動量が少ないこと,座りがちな行動,性交渉,不安による睡眠問題,孤独感,親しい友人がいないこと,親の支援・監視が少ないこと,いじめ被害]を選択した。

多変量ロジスティック回帰分析を実施し,潜在的な相関因子を評価した。

結果

162,994名の青少年[平均(標準偏差)年齢13.8(0.9)歳,男子50.8%]のデータを解析した。

単回の自殺企図の全体での有病率は6.2%[範囲:2.3%(インドネシア)~20.5%(キリバス)],複数回の自殺企図の全体での有病率は4.4%[範囲:1.2%(ラオス)~13.8%(ガーナ)]であった。全ての有意な相関因子は,親からの支援が少ないことを除いて,単回の自殺企図よりも複数回の自殺企図とより強く関連していた。複数回の自殺企図については,年齢だけが相関因子でなかったが,それ以外の全ての相関因子は有意な関連を示した。

地域別分析では,飢え,喫煙,アルコール摂取,大麻使用,アンフェタミン使用,性交渉,睡眠問題,孤独感,親しい友人がいないこと,いじめ被害が自殺企図と一貫した正の関連を示し,全ての地域で複数回の自殺企図のオッズ比が高かった。

結論

61ヶ国の青少年を対象とした大規模な本研究では,複数回の自殺企図の有病率が高く,評価したほぼ全ての相関因子が単回の自殺企図よりも複数回の自殺企図と強く関連していることが明らかになった。自殺企図者のうち,サンプル全体では,飢え,喫煙,アルコール摂取,大麻使用,アンフェタミン使用,座りがちな行動,性交渉,睡眠問題,孤独感,親しい友人がいないこと,いじめ被害は全て,単回の自殺企図と比較して,複数回の自殺企図の確率が高いことと関連があった。興味深いことに,喫煙,アルコール摂取,大麻使用,アンフェタミン使用,座りがちな行動,性交渉,睡眠問題,孤独感だけが,全地域で複数回の自殺企図の高いオッズと関連していた。その他の因子については,地域特有の関連が認められた。

本研究の結果は,複数回の自殺企図を予防するために,様々な取り組み(自殺手段へのアクセスの減少,精神療法,前向きなライフスタイルの推進など)を行うべきであることを示唆している。世界の地域によって複数回の自殺企図の相関因子が異なっていることが観察されており,世界的に複数回の自殺企図を防止するためには,地域別の取り組みが必要である。今後,質的な研究により,なぜこのような差異が生じるのかを明らかにし,より適切な介入を行うことを目指す必要がある。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(佐久間 睦貴)

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