特定の物質使用障害による自殺の比較リスク:全国コホート研究

J PSYCHIATR RES, 144, 247-254, 2021 Comparative Risk of Suicide by Specific Substance Use Disorders: A National Cohort Study. Crump, C., Sundquist, J., Kendler, K. S., et al.

背景と目的

物質使用障害は自殺の重要な危険因子である。しかし,個々の物質使用障害によるリスクの相違についてはほとんど知られていない。著者らは,スウェーデンの約700万人の全成人を対象とする全国コホート研究を行い,特定の物質使用障害に関連した自殺リスクを比較した。

方法

対象は2003年1月1日時点で2年以上スウェーデンに居住していた18歳以上の6,947,191人である。

2001~2002年のICD-10に基づく入院・外来診断データと犯罪データを用いて,個々の物質使用障害(オピオイド,鎮静剤/催眠剤,幻覚剤,大麻,アンフェタミン,コカイン,アルコール)を特定した。スウェーデン死因登録のデータを用いて,2003年1月1日~2016年12月31日の自殺による死亡を追跡調査した。更に社会人口統計学的因子(年齢,性別,婚姻,教育水準,就労,収入),精神的併存症,身体的併存症の有無を調査した。

Cox比例ハザード回帰分析を行い,社会人口統計学的因子,精神疾患,物質使用障害,身体疾患の併存について調整し,自殺死亡のハザード比(HR)を算出した。また,共同胞分析(co-sibling analyses)を行い,測定されていない家族性(遺伝的及び/または環境的)因子による交絡を評価した。

結果

対象の6,947,191人中,物質使用障害で多かったのはアルコール(43,271人),鎮静剤/催眠剤(5,402人),オピオイド(4,011人)であった。自殺死亡者数は,コホート全体で15,616人(0.2%)であり,薬物使用障害患者で3.05%,アルコール使用障害患者で2.4%であった。

共変量の調整前では,物質使用障害と自殺死亡リスクとは強い関連を示し,HRはアルコールの12からオピオイド,鎮静剤/催眠剤の25超であった。人口統計学的因子・精神疾患・物質使用障害で調整すると,上昇幅は減少したものの,物質使用障害に関連した自殺死亡リスクの上昇は有意なままであった(HRは2.58~6.46)。全ての共変量の調整後,物質使用障害のうち自殺死亡と強い関連を示した物質は,オピオイド[HR=6.39,95%信頼区間(CI):5.53-7.38,他の物質使用障害と比較するとp≦0.002],鎮静剤/催眠剤(HR=4.62,95%CI:4.06-5.27,オピオイドや幻覚剤を除く他の物質使用障害と比較するとp≦0.009),幻覚剤(HR=4.11,95%CI:2.47-6.83)であった。

性別では,全ての共変量の調整後,男性では全ての物質使用障害が自殺死亡のリスク上昇と有意な関連を示したのに対し,女性では幻覚剤・大麻・コカインを除く物質使用障害がリスク上昇と有意に関連していた。

共同胞分析を行い,測定されていない家族性因子を調整した後も,オピオイド(HR=4.24,95%CI:2.48-7.26,p<0.001)や鎮静剤/催眠剤(HR=4.33,95%CI:2.59-7.25,p<0.001)と自殺死亡のリスク上昇とは有意に関連し,因果関係を有することが示唆された。

考察と結論

本研究によって,大規模な全国規模のコホートにおいて全ての物質使用障害が自殺死亡のリスクを有意に上昇させることが示され,特にオピオイドと鎮静剤/催眠剤の使用障害で強い関連が認められた。

本研究の限界は,物質使用障害が過少に報告されている可能性があること,幻覚剤・大麻・コカインの使用障害患者が少ないこと,死因分類が誤っている可能性があること,タバコやストレスとなる生活上の出来事が評価されていないこと,一国内に限られていることが挙げられる。

本研究の知見は,リスクの層別化を改善し,物質使用障害のあるリスクの最も高い患者の自殺を予防するための介入に役立つと思われる。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(久江 洋企)

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