急性アルコール中毒とカクテルパーティーの問題:“モクテル”は役に立つのか,立たないのか?

PSYCHOPHARMACOLOGY, 238, 3083-3093, 2021 Acute Alcohol Intoxication and the Cocktail Party Problem: Do “Mocktails” Help or Hinder? Harvey, A. J., Beaman, C. P.

背景

喧騒の中で一人の話し手の言うことを聞き取る人間の能力は特筆すべきであり,これをカクテルパーティー効果と呼ぶ。アルコールは作動記憶の能力を低下させ,心の迷いを増加させることが知られており,つまりカクテルパーティー効果の可能性が高くなると予想される。その代わり,アルコールは,二次チャンネル(課題中に片方の耳から入ってくる情報で,無視するように指示されている)において名前を検出する可能性を下げることで,聞き手の注意を一次チャンネル(もう片方の耳から入る情報で,これを対象とした課題が聞き手に課される)に絞っている可能性がある。

本研究では,カクテルパーティー効果におけるアルコールと認知機能の複合的な効果を検証した。

方法

18~60歳の,正常な聴覚を有する81名(女性51名,男性30名)の大学生が参加した。Michigan Alcohol Screening Test(MAST)評点が6点以上の問題飲酒者は除外した。参加者は実験の24時間前から飲酒を,4時間前から食事を控えるよう指示された。参加者は,オペレーションスパンタスク(OSPAN)による作動記憶の検査を受けた後,ウォッカをトニックウォーターで割ったアルコール飲料440mL[女性1.35mL(10度)/体重kg,男性1.5mL(40度)/体重kg],もしくはプラセボとしてトニックウォーターのみ440mLのいずれかを摂取する群に無作為に割り付けられた。

飲料を摂取した後,参加者の両耳に左右で異なった音声を流した。片方の耳には女性の音声で,単音語を60語/分の割合で,5分半(330語)流した。女性の音声が流れ始めてから30秒後に,反対側の耳に男性の音声で300の単音語を流した。参加者は,女性の音声のみを聞き取って復唱するよう指示された。無視する男性の音声の中には参加者の名前が含まれており,半数の参加者は開始後4分に,残りの半数は開始後5分に聞こえるようになっていた。タスク終了後,参加者は実験中に聞き取り,記憶したことに関する質問に回答した。

結果

アルコール群とプラセボ群で,OSPAN評点による作動記憶に差はなかった。OSPAN評点の中央値で,高作動記憶群と低作動記憶群に分けた。

アルコール群の血中アルコール濃度は,飲酒後30分で欧米の多くの国で運転できなくなる0.08%に達し,45分後に0.07%に漸減した。

カクテルパーティー効果については,52%(42名)の参加者が,無視する方の音声で自分の名前が呼ばれていることに気がついたが,これに対してアルコールの摂取量や作動記憶の影響はなかった。対数線形解析によると,アルコールの有無,作動記憶の高低と,名前に気づくことの間に相互作用は認められなかった。

聞き取り間違いに関して,アルコールや作動記憶の効果,及びアルコールと作動記憶の相互作用は認められなかった。

序盤から中盤に聞こえた単語よりも,終盤に聞こえた単語の方がよく記憶されていた(p<0.001)(図)。また,単語の聞こえるタイミングと作動記憶には有意な相互作用が認められたが(p=0.007),作動記憶のみやその他の効果は認められなかった(図)。二次チャンネルの音声に対しては,作動記憶,アルコール共に影響はなかった。

考察

本研究では,作動記憶が低い参加者ほど自分の名前に気づくという,カクテルパーティー効果に最も関連した知見を再現できなかった。また,急性のアルコール摂取は,選択的な聴覚性の注意に影響しないようである。そのため,パーティーの参加者にとってモクテル(ノンアルコール飲料)を飲むことは,他のほろ酔いの同伴者と比べ,聞き取りという点では無益と言える。ただし,アルコール濃度が高いほど注意が限定されることや,高濃度と低濃度で効果が逆になる可能性は考えられる。

図.アルコールの有無、作動記憶の高低、単語が発せられる順序(序盤・中盤・終盤)によって分類した、想起された一次チャンネルの単語の平均数

254号(No.2)2022年6月20日公開

(上野 文彦)

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