一般人口において成人以降に認められる幻覚:その有病率と精神病理学的意義

BR J PSYCHIATRY, 219, 652-658, 2021 Hallucinations in the General Population Across the Adult Lifespan: Prevalence and Psychopathologic Significance. Yates, K., Lång, U., Peters, E. M., et al.

背景と目的

幻覚は最も経験頻度の高い精神症状として知られている。これまでに地域研究によって,幻覚の有病率が比較的高いこと,また幻覚が希死念慮と自殺企図,そして様々な精神障害と関連することが明らかにされてきた。しかし,大部分は青年期と若年成人を対象としたものであり,成人以降についてはあまり知られていない。そこで,本研究では成人期以降の生涯期間を七つの年齢層(16~19歳,20~29歳,30~39歳,40~49歳,50~59歳,60~69歳,70歳以上)に区分し,幻覚とうつ病,恐怖症,パニック症,強迫症,混合性不安抑うつ障害,全般不安症といった諸精神障害との関係,更に幻覚と希死念慮及び自殺企図との関連を調査した。

方法

Adult Psychiatric Morbidity Survey(APMS)の横断研究における1993年,2000年,2007年,2014年のコホートから取得したデータを結合した。

APMSにおいては,幻覚の評価は精神病スクリーニング質問票(Psychosis Screening Questionnaire)に従っている。本研究では,評価の結果が精神障害に起因するものでないことを明らかにするため,精神障害またはその可能性がある者を除外して分析を行った。精神障害が疑われる者に対してはSchedules for Clinical Assessment in Neuropsychiatry(SCAN)を用いて診断した。転帰については,改訂版Clinical Interview Schedule(CIS-R)を用いて,過去1週間以内のうつ病,恐怖症,パニック症,強迫症,混合性不安抑うつ障害,全般不安症の評価を行った。希死念慮と自殺企図の評価には,2000年,2007年,2014年のデータのみを利用した。

統計解析

ロジスティック回帰モデルを用いて,幻覚を予測因子とした諸精神障害との関連と,希死念慮・自殺企図との関連を調べた。いずれの分析でも,各年齢層における転帰の有病率と,それぞれの一つ前の年齢層での有病率を比較した。転帰は,精神障害の有無,希死念慮,自殺企図の有無の三つとした。

結果

標本サイズは,1993年がN=10,108,2000年がN=8,580,2007年がN=7,403,2014年がN=7,546で,結合するとN=33,637となり,うち56%が女性であった。

合計で1,376名(4.24%)が過去1年間に幻覚があったと報告した。幻覚の有病率には,全年齢層で有意な低下傾向が見られた(z=-6.83,p<0.001)(図A-a)。各層間では,16~19歳と20~29歳,50~59歳と60~69歳,60~69歳と70歳以上との間に有意な低下が見られた。男性(z=-5.16,p<0.001)と女性(z=-4.61,p<0.001)のそれぞれの全年齢層を通じて有意な低下が見られた。

5,668名(16.97%)が少なくとも一つの精神障害を抱えていることがわかった。16~19歳と20~29歳の間で精神障害の有病率は有意な上昇を示し,それ以降の各年齢層を比較すると全層で有意な低下が見られ(図A-b),男女別でも共に有意な低下(男性z=-4.68,p<0.001;女性z=-10.23,p<0.001)が見られた。

希死念慮は,生涯期間で3,924名(16.81%)から報告があった。30~49歳と50~69歳の間,また50~69歳と70歳以上との間には有意な減少が見られ(図B-a),また,七つの年齢層を通じて有意な減少が見られ,男女別でも共に有意な減少(男性z=-9.67,p<0.001;女性z=-14.25,p<0.001)が見られた。

自殺企図は1,256名(5.38%)で報告された。全ての年齢層を通じて有意な減少が見られ(図B-b),男女別でも七つの年齢層を通じて共に有意な減少(男性z=-5.26,p<0.001;女性z=-9.58,p<0.001)が見られた。

幻覚を報告した者は,そうでない者と比較して,少なくとも一つの精神障害を発症するオッズが3〜5倍程度であった。また,全年齢層で有意な減少傾向を示していた(z=-2.81,p<0.005)。男女別では,幻覚を報告した者がそうでない者と比べて精神障害を発症するオッズは,女性で3~5倍,男性で3~4倍程であった。

全ての年齢層において,幻覚を報告した者は同じ層のそうでない者よりも生涯期間における希死念慮と自殺企図のオッズが高かった。幻覚のある者では,年齢層を通じて希死念慮と自殺企図の両方に有意な減少傾向が見られた(希死念慮:z=-4.44,p<0.001;自殺企図:z=-3.53,p=0.002)。

結論

本研究の結果は,幻覚が全ての年齢層において様々な精神障害や希死念慮,自殺企図と関連があることを示し,幻覚の生涯を通じた発達特性上の重要な特徴を浮き彫りにした。

図A.幻覚と精神障害の有病率
図.希死念慮及び自殺企図の有病率

254号(No.2)2022年6月20日公開

(舘又 祐治)

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