成人の難治性慢性疼痛患者の破局的思考とメンタルヘルス上の特性:潜在クラス分析

J PSYCHIATR RES, 145, 102-110, 2022 Pain Catastrophizing and Mental Health Phenotypes in Adults With Refractory Chronic Pain: A Latent Class Analysis. Slawek, D. E., Syed, M., Cunningham, C. O., et al.

背景

慢性疼痛は,少なくとも3ヶ月の間,ほとんどの日もしくは毎日痛みを経験していることと定義されている。この慢性疼痛が,メンタルヘルスと密接に関係する公衆衛生上の問題として大きくなりつつある。世界全体で15億人が慢性疼痛に苦しんでいると推定されており,成人の有症状者の半数以上がうつ病,不安症,心的外傷後ストレス障害(PTSD),注意欠如・多動症(ADHD)を含む深刻なメンタルヘルス上の問題を併せ持っており,これらの問題が併存すると生活の質(QOL)が低下するとされている。

本研究では,これらのメンタルヘルス上の問題と疼痛との関連を理解するために,より強い痛み及び低機能と関連している,メンタルヘルス上の特性を明らかにすることを目的とした。

方法

現在行われているMedical Marijuana and Opioids(MEMO) Studyのデータを利用し,ニューヨークにおいて医療用麻薬を使用している慢性疼痛の18歳以上の患者群を対象に,破局的思考と,上記疾患の症状による潜在クラス分析を行い,クラスターに分類した。更に,記述的統計学により社会人口統計学的特性と臨床症状の特徴との比較を行った。それぞれの症状の強さを強弱に二分する方法を採った。破局的思考の測定には,13の質問から成る破局的思考尺度(Pain Catastrophizing Scale:PCS)を用い,52点満点中30点以上を破局的思考が強いと設定した。抑うつ症状の評価には9-item Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9;10点以上を高),不安症状にはGeneralized Anxiety Disorder 7-item Scale(GAD-7;同10点以上),PTSD症状には6-item Abbreviated Post-Traumatic Stress Disorder Checklist(PCL-C;同14点以上),ADHD症状には6-item Adult ADHD Self-Report Screening Scale for DSM-5(ASRS-5;同14点以上)をそれぞれ用いた。またQOLの評価にはEuroQol 5-Dimension Scale(EQ-5D-5L)を用いた。性別,年齢,学歴,人種,民族,職業などの社会人口統計学的特性及び過去30日間の非医療用麻薬,コカイン,ヘロイン,タバコ,アルコールの使用の情報も確認した。

結果

185名の対象者のうち,55%が女性,平均年齢は53.9歳であった。37%が喫煙者で,30%が非医療用麻薬を使用していた一方,コカインとヘロインの使用はそれぞれ2%と1%であった。

潜在クラス分析の結果,①破局的思考の点数が低く,精神症状も弱い群(49%),②破局的思考の点数が低く,ADHD症状が優位な群(11%),③破局的思考の点数が高く,不安症状が優位な群(11%),④破局的思考の点数が高く,精神症状も強い群(30%)の4群に分類された。

破局的思考と精神症状が共に強い④群では,共に弱い①群に比較し,痛みと障害[Pain, Enjoyment of Life and General Activity Scale(PEG)の平均点が8.1 vs 6.7,p<0.001],能力の低下[Roland Morris Disability Questionnaire(RMDQ)の平均点が9.8 vs 8.3,p<0.001],不眠[Insomnia Severity Index(ISI)の平均点が17.1 vs 9.4,p<0.001],QOLの低下(EQ-5D-5Lの平均点が0.42 vs 0.63,p<0.001)がより大きかった。破局的思考は弱くADHD症状が優位な②群との比較でも,④群では痛みと障害(同8.1 vs 6.9,p=0.03),能力の低下(同9.8 vs 8.3,p=0.04),不眠(同17.1 vs 13.7,p=0.04),QOLの低下(同0.42 vs 0.62,p<0.001)が大きかった。破局的思考が強く不安症状が優位な③群との比較では,④群は痛みと障害が大きく(同8.1 vs 7.3,p=0.04),不眠が強く(同17.1 vs 11.3,p<0.001),QOLが低かった(同0.42 vs 0.58,p<0.001)。破局的思考が弱くADHD症状が優位な②群では,①群と比較し不眠症状が強かった(同13.7 vs 9.4,p<0.01)。

考察

本研究では,破局的思考とメンタルヘルス症状の相互作用が,疼痛と機能に影響を及ぼしていることが示唆された。破局的思考に対する治療を組み込むことによって転帰が改善する可能性がある。破局的思考を併存する疼痛患者を見出すためには,メンタルヘルス,プライマリーケア,疼痛のそれぞれの治療を行う者の協働が必要である。難治性の慢性疼痛と精神症状を併発している患者のケアにおいて,メンタルヘルスと疼痛のそれぞれの治療を行う者が協働して治療に当たることが求められる結果となった。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(真鍋 淳)

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