余暇の身体活動と精神的苦痛及び精神的幸福の前方視的関連性:12年間のコホート研究

PSYCHOSOM MED, 84, 116-122, 2022 Prospective Associations of Leisure-Time Physical Activity With Psychological Distress and Well-Being: A 12-Year Cohort Study. Werneck, A. O., Stubbs, B., Kandola, A., et al.

背景と目的

身体活動は,精神的幸福(psychological well-being)を促進し,精神的苦痛(psychological distress)を軽減する可能性がある。精神的幸福とは,対人関係を維持し,生産的に働き,地域社会に貢献し,精神的苦痛に対処しながら,個々の可能性を実現する肯定的な状態を指す。精神的苦痛とは,正常な日常機能を妨げるような否定的な感情の存在である。余暇の身体活動と精神的苦痛及び精神的幸福の容量反応関係,潜在的な仲介因子に関する研究は不足している。

そこで,余暇の身体活動と精神的苦痛及び精神的幸福との関連を検討し,更にこの関連に対して潜在的な仲介因子[認知機能,体格指数(BMI),障害,痛み]が影響しているかどうかを調査することを目的として本研究を行った。

方法

1970年の特定の週に生まれた人々を対象にした英国のコホート研究(5,197名,2,688名は女性)から,34歳(2004年),42歳(2012年),46歳(2016年)の追跡時点のデータを分析した。

34歳時(基準時点)における余暇の身体活動の頻度と強度(曝露),34歳時及び46歳時における精神的苦痛(Malaise Inventory,倦怠感目録),46歳時における精神的幸福(Warwick-Edinburgh Mental Well-being尺度)のデータを用いた。潜在的な仲介因子を評価するために,42歳時における認知機能(語彙テスト),BMI,障害,可動性,痛みの知覚の評価を用いた。

共変量として,34歳時(基準時点)の性別,居住国,教育,雇用状況,アルコール使用,喫煙,精神的苦痛を含めた。主な解析にはロジスティック回帰モデルと仲介モデルが含まれていた。

結果

34歳時における余暇の身体活動の強度が高いことは,46歳時における低い精神的苦痛と関連していたが[β=-0.038,95%信頼区間(CI):-0.069--0.007],余暇の身体活動の頻度は関連していなかった。34歳時における余暇の身体活動の頻度と強度が高いことは,46歳時における高い精神的幸福と関連していた(頻度:β=0.089,95%CI:0.002-0.176;強度:β=0.262,95%CI:0.123-0.401,総量:β=0.041,95%CI:0.013-0.069)。

身体活動の強度と総量は認知機能と正の関連を示し,身体活動の頻度と総量はBMIと負の関連を示した。42歳時におけるBMIのみが,34歳時における余暇の身体活動の頻度(15.7%)及び総量(6.2%)と46歳時における精神的幸福との関連を部分的に仲介していた。すなわち,余暇の身体活動の頻度及び総量の低いことが,高いBMIによって仲介され,低い精神的幸福と関連していた。

結論

今回の調査結果は,余暇の身体活動の頻度と強度が高くなると,精神的苦痛が減少し,また精神的幸福が大きくなることに関連することを示しており,精神障害を減らす上で余暇の身体活動が公衆衛生上重要であることが強調された。

将来の研究では,BMIのような余暇の身体活動と精神的幸福との関連における潜在的な仲介因子について調査すべきである。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(倉持 信)

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