ベンゾジアゼピン離脱後の遅発性の危機:適応メカニズムの欠損か単なる薬物動態か? 血清中ベンゾジアゼピン濃度トラッキングによる漸減中止

EUR J CLIN PHARMACOL, 78, 101-110, 2022 Delayed Crises Following Benzodiazepine Withdrawal: Deficient Adaptive Mechanisms or Simple Pharmacokinetics? Detoxification Assisted by Serum-Benzodiazepine Elimination Tracking. Basińska-Szafrańska, A.

はじめに

ベンゾジアゼピン依存の患者の中には,たとえ依存を断つ意志が強くとも漸減中止後の早期に依存が再燃する例が存在する。再燃の原因が性格要因や生物学的な再適応プロセスによるものであるのか,あるいは薬物動態自体による遅発性の離脱症候群によるものであるのかはいまだに明らかではない。更に,後者に対して血中濃度を追跡した研究は今までに行われていない。

今回の単群非盲検試験による研究では,漸減中止の経過を追うために血清ベンゾジアゼピン濃度の測定を継続しながら,薬物動態自体が漸減中止後の離脱症候群と関連するかどうか,どの因子が離脱症候群に関係しているか,これらの結果が日常臨床にどのように結びつけられるかを検討した。

対象と方法

対象はベンゾジアゼピン依存の入院患者350名で,外来や入院環境で依存を断つ試みに失敗したために紹介され当方に入院加療となった例であり,いずれの例でも依存を断つ意志を示していた。

漸減中止は以下の4段階で行われ,依存となったベンゾジアゼピンは長時間作用型のジアゼパムに変換され,ベンゾジアゼピン退薬症候評価尺度(Clinical Institute Withdrawal Assessment Scale-Benzodiazepine:CIWA-B)の評点と血清ベンゾジアゼピン濃度を継続的に測定した。1段階目でジアゼパムへの変換を行った。変換量は等価換算表及び患者自身による飽和状態までの滴定手法により決定した。2段階目で血中濃度の基準時点を決定した。ジアゼパムは半減期が長いため(36~200時間)に,決定した変換量の継続投与であっても血中濃度自体は蓄積されて上昇し続けてしまうため,血中濃度を参考にしながらジアゼパム投与量を減量し,基準時点のジアゼパム血中濃度を決定した。3段階目でジアゼパムの漸減中止を行った。漸減の速度は個々の患者の離脱症状の強さに応じて,個々の患者に合わせて柔軟に調節した。処方中止後,血中濃度が測定できなくなるレベル(<3ng/mL)までをこの期間(漸減中止期間)と定めた。4段階目は中止後の観察期間であり,中止後に十分に安定が得られるまで入院での観察を続けた。

統計に用いる指標として,ジアゼパム変換量,基準時点の血中濃度,最大蓄積濃度の日(入院後の日数)と量,処方中止日,ジアゼパム濃度測定完了日(<3ng/mL),離脱症状最大日,離脱最終日などを用いた。

結果

321名(91.7%)でジアゼパムの中止に至った。ジアゼパムへの変換は27.4±25.4mgで行われた。最大蓄積は5.0±3.9日目に認められ,その濃度の中央値は554ng/mL(範囲52~4,763)であった。漸減中止期間は29.1±14.3日にわたり,薬剤の中止後22.3±13.7日続いた。離脱症状最大日は19.7±13.3日目に,離脱最終日は処方終了の17.9±15.7日後に認められた。

離脱症状最大日は年齢と正の相関を,離脱最終日は年齢,依存の年数,ジアゼパム濃度測定完了日,漸減中止期間,漸減中止の開始日,処方中止日,バルプロ酸の投与と正の相関を示した。また,ジアゼパム濃度測定完了日は最大蓄積濃度の量,最大蓄積濃度の日,処方中止日と正の相関,漸減中止期間は最大蓄積濃度の量と処方中止日と正の相関を示した。

考察

本研究ではベンゾジアゼピンの投与を中止した後も数週間以上,高齢者では数ヶ月以上も血液中にベンゾジアゼピンが残存し,その間に離脱症状が出現していることが明らかになった。この長引く漸減中止期間を正しく認識することで,依存の再燃を減らせる可能性が示唆された。

254号(No.2)2022年6月20日公開

(船山 道隆)

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