【from Japan】
うつ病における未来性思考中の前頭極皮質機能に対する認知行動療法の効果:無作為化臨床試験

Journal of affective disorders, 298, 644-655, 2022 Cognitive behavioral therapy effects on frontopolar cortex function during future thinking in major depressive disorder: A randomized clinical trial. Nariko Katayama, Atsuo Nakagawa, Satoshi Umeda, Yuri Terasawa, Takayuki Abe, Chika Kurata, Yohei Sasaki, Dai Mitsuda, Toshiaki Kikuchi, Hajime Tabuchi, Masaru Mimura

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片山 奈理子 先生

慶應義塾大学医学部精神・神経科

片山 奈理子先生 写真

背景

うつ病患者は自分の将来について「何をやってもうまくいかないだろう」「将来には希望がない」などと悲観的に考え,将来について考えることが非常に困難になる。その未来に関する否定的な認知は,希死念慮を生み,自殺にも繋がる非常に重要な症状である。

これまで,健常者における未来について考えること(未来性思考)に関与する脳部位として,前頭極皮質(BA10)が注目されており,我々はその未来について考えている時のBA10の活動が,うつ病患者では健常者に比べて過活動になっていることを以前報告した。認知行動療法(CBT)は,うつ病患者の未来に対する否定的な認知を是正し,長期的な目標を設定し,その目標を達成するための問題解決の技法を学んでいくことで,気分を改善させる精神療法の一つである。しかし,その未来について考えている時の脳神経活動に対するCBTの効果を検討した研究はなく未解明であった。

そこで,著者らは,構造化されていない精神療法(トーキングコントロール:TC)と比較して,CBTにおける未来性思考に関連するBA10の活動の変化を検討した。

方法

中等度~重度の大うつ病性障害の成人患者38名を対象に,薬物療法に併用して毎週1回約50分のCBTまたはTCを16週間行い,6ヶ月の追跡期間を設けた無作為化臨床試験を行った。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,遠い未来について考える課題時のBA10の活動変化を治療前後に評価し,併せて神経心理認知機能と臨床症状も評価した。追跡6ヶ月後では,うつ病の重症度と自動思考を評価した。

結果

CBTによる治療後は治療前と比べて遠い未来について考えている時の前頭極皮質の活動が減少し(t=3.00,df=15,p=0.009),TCでは変化がなかった(図)。更に,BA10活性の低下は,治療後の前頭部認知機能の変化(r=0.48,p=0.007),治療6ヶ月後のポジティブな自動思考(r=0.39,p=0.03)と有意な相関が見られた。

結論

将来に対して悲観的であるうつ病患者がCBTによって未来性思考中の前頭極皮質機能が改善し,治療終了半年後のポジティブな自動思考(ふと頭の中に浮かんでくる考えやイメージ)とも相関していたことから,CBTはTCとは異なる治療メカニズムにより,脳機能を改善させることが示唆された。

今後,多様な症状が現れるうつ病の治療において,脳内変化を想定した効果的な精神療法が確立され,治療戦略の構築に貢献することが期待される。

図.認知行動療法(cognitieve behavioral therapy:CBT)または構造化されていない精神療法(トーキングコントロール:TC)を受けたうつ病患者が遠い将来について思考している時の脳活動変化

254号(No.2)2022年6月20日公開

(片山 奈理子)

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