統合失調症に対して抗精神病薬はどの程度有効か? 13のエフェクトサイズの指標による解釈

SCHIZOPHR BULL, 48, 27-36, 2022 How Efficacious Are Antipsychotic Drugs for Schizophrenia? An Interpretation Based on 13 Effect Size Indices. Leucht, S., Siafis, S., Engel, R. R., et al.

背景

抗精神病薬は統合失調症の急性期治療に有効であるが,プラセボとの差については議論がある。その理由の一つとして,統合失調症の症状の測定には研究間で異なる評価尺度が用いられているが,これらを統合するエフェクトサイズの指標として標準偏差の単位である標準化平均差(Standardized Mean Difference:SMD)が用いられているため解釈が難しいということが挙げられる。エフェクトサイズの指標は他にも多くあり,中にはより直感的な指標もある。しかし,その多くは抗精神病薬等のメタ解析で適用されていない。そこで本研究では,最近の抗精神病薬のメタ解析の結果に対して13のエフェクトサイズの指標を適用して,抗精神病薬の効能を様々な角度から解釈した。

方法

統合失調症の急性期治療において抗精神病薬とプラセボを比較した最近のメタ解析(Leucht et al., 2017)における陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)総点と,ネットワークメタ解析(Huhn et al., 2019)の結果に,以下の13のエフェクトサイズ指標を適用した。すなわち,平均差(Mean Difference:MD),SMD(MDを標準偏差で割ったもの),相関係数r(反応者の割合の群間差),エンドポイントの平均値の比あるいは変化量の比(Ratio of Means:RoM),改善比率(Improvement Fraction:IF, 変化量の群間差をプラセボの平均変化量で割ったもの),薬剤反応比率(Drug Response Fraction:DRF,変化量の群間差を薬剤投与群の平均変化量で割ったもので,薬剤投与群の改善のうち真の薬剤反応の割合を示す),臨床的に重要な最小の差当たりのエフェクトサイズ(Minimally Clinically Important Difference Units:MCID単位,MDをMCIDで割ったもの),必要治療数(Number Needed Treat:NNT),オッズ比(Odds Ratio:OR),相対リスク(Relative Risk:RR),リスク差(Risk Difference:RD,薬剤とプラセボの反応率の差),対照イベント率(Control Event Rate:CER,ここではプラセボ反応率),実験イベント率(Experimental Event Rate:EER,ここでは抗精神病薬群の反応率)である。

結果

抗精神病薬とプラセボを比較した最近のメタ解析の結果(のべ105試験,22,741人)に13の指標を適用したところ,以下に相当した[( )内は95%信頼区間]。薬剤投与群とプラセボ群のPANSSのMD 9.4点(8.4-10.2),SMD 0.47(0.42-0.51),相関係数r 0.23(0.21-0.25),RoMエンドポイント0.83(0.81-0.85),RoM変化量1.94(1.84-2.02),DRF 48.5%(45.7%-50.5%),IF 94%(84%-102%),MCID単位(使用するMCIDにより異なる)0.63(0.56-0.68)(MCIDがPANSS 15点の場合)/0.94(0.84-1.02)(MCIDがPANSS 10点の場合),NNT 5(5-6),OR 2.34(2.14-2.52),RR 1.67(1.59-1.73),RD 20%(18%-22%)。また,プラセボ群の反応率30%(27%-34%)に対して薬剤投与群の反応率は50%(48%-52%)であった。

結論

これらの指標を総合すると,プラセボと比較した抗精神病薬の効果は明らかではあるが,大きくはないようである。各指標の中で,プラセボ反応率(30%)と薬剤反応率(50%)を一緒に表示するのが臨床的に最もわかりやすいと思われる。他の指標は全て群間差を示したものであり,相対リスクや絶対リスクの差が臨床的に意味のあるものかどうかを理解するためには,プラセボ反応を知る必要があると言える。

今後のメタ解析では,SMDに加えて他のエフェクトサイズの指標,特に,容易に導き出すことができる薬剤投与群とプラセボ群における反応者の割合も報告することで,研究結果の解釈を深められるであろう。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(谷 英明)

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