統合失調症患者に対する抗精神病薬使用は心代謝系薬剤の服薬アドヒアランスの高さと関連する:フィンランドの全国規模の被験者内デザイン研究結果から

SCHIZOPHR BULL, 48, 166-175, 2022 Antipsychotics Use Is Associated With Greater Adherence to Cardiometabolic Medications in Patients With Schizophrenia: Results From a Nationwide, Within-subject Design Study. Solmi, M., Tiihonen, J., Lähteenvuo, M., et al.

はじめに

統合失調症患者の平均余命は一般人口に比べて約14.5年短いという研究結果がある。統合失調症患者における非自然死(自殺など)は一般集団と比較して多いものの,多くの死因は併存する内科疾患によるものである。統合失調症患者では,メタボリック症候群や糖尿病の有病率が高く,これらの因子と不健康な生活習慣の結果として,心血管疾患(CVD)が多く見られる。

抗精神病薬が代謝異常のリスクの一因となっている影響で,統合失調症患者では死亡率が高いと推測されてきた。しかし,抗精神病薬の死亡率に対する影響について調査したフィンランドの全国規模のコホート研究をはじめとして,抗精神病薬は身体疾患やCVDによる入院を増やさず,全死亡とCVD関連死を減少させるという結果が発表されている。

つまり,統合失調症患者における抗精神病薬使用は,短期的に心代謝系に有害であるにもかかわらず,死亡率は低下するという逆説的な関連が認められている。この理由として,抗精神病薬を服薬中の患者ではCVD治療薬に対するアドヒアランスが高くなる可能性が考えられる。本研究では,抗精神病薬使用が,スタチン,糖尿病治療薬,降圧薬(カルシウム拮抗薬,レニン‐アンジオテンシン系降圧薬),β遮断薬の中止リスク低下と関連するかどうかを調べることを目的とした。

方法

フィンランドにおいて1972~2014年に統合失調症または統合失調感情障害(以下,統合失調症)と診断された65歳以下の患者を対象とし,スタチン,糖尿病治療薬,降圧薬,β遮断薬について,各被験者内で抗精神病薬服薬期間と非服薬期間における薬剤中止リスクを比較した。

結果

患者52,607名のうち,スタチンは26.7%,糖尿病治療薬は24.8%,降圧薬は32.7%,β遮断薬は40.8%で処方されていた。

抗精神病薬使用は,非使用と比較してスタチン中止リスク低下と関連していた[調整ハザード比(aHR)=0.61,95%信頼区間(CI):0.53-0.70]。同様に,糖尿病治療薬(aHR=0.56,95%CI:0.47-0.66),降圧薬(aHR=0.63,95%CI:0.56-0.71),β遮断薬(aHR=0.79,95%CI:0.73-0.87)の中止リスク低下とも関連していた。全体としてこの効果は第二世代抗精神病薬でより大きいものの,第一世代抗精神病薬でも有意であった。

性別,年齢ごとの比較では,抗精神病薬使用は非使用と比較して,男性,女性,65歳以下においてスタチン中止リスクを40%減らし,65歳超の高齢者においてはよりリスクが低かった(HR=0.47,95%CI:0.32-0.70)。同様に,抗精神病薬は男性,女性,40歳超において糖尿病治療薬中止リスクを35~40%減らし,40歳以下ではよりリスクが低かった(HR=0.33,95%CI:0.20-0.53)。降圧薬中止リスクは男女共に抗精神病薬使用によって35~40%低下したが,年齢別解析では低下が認められたのは41~65歳のみであった。β遮断薬中止リスクは男性で30%,女性で13%低下した。

結論

統合失調症患者において,特に第二世代抗精神病薬使用はスタチン,糖尿病治療薬,降圧薬,β遮断薬の中止リスクを有意に低下させる。抗精神病薬は心血管系に対して短期的には有害であるが,CVDの治療へのアドヒアランスが良いことが死亡率を下げることに関連している可能性があり,今後の研究では,抗精神病薬による心血管死亡率低下がCVD治療中止の少なさによって生じたものなのかどうかを検討する必要がある。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(内沼 虹衣菜)

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