臨床的に安定した統合失調症患者における経口及び持効性注射剤抗精神病薬の無作為中止後の非再燃の予測因子:参加者個人データの再解析

SCHIZOPHR BULL, 48, 296-306, 2022 Predictors of Lack of Relapse After Random Discontinuation of Oral and Long-acting Injectable Antipsychotics in Clinically Stabilized Patients with Schizophrenia: A Re-analysis of Individual Participant Data. Schoretsanitis, G., Kane, J. M., Correll, C. U., et al.

はじめに

抗精神病薬中止後の統合失調症再燃リスクの低い患者を特定する予測因子は,主に自然経過コホート研究から得られているが,コホート研究は選択バイアス,適応症による交絡,予後不良者の脱落が生じるため,そのような予測因子があるかどうかは,現在までのところよくわかっていない。本研究では選択バイアスや適応症による交絡を克服するため,抗精神病薬の維持療法を無作為に中止した統合失調症患者における再燃のリスクとその予測因子を定量化することを目的とした。

方法

Yale Open Data Accessリポジトリで公開されている,再燃予防のための抗精神病薬に関する5件のプラセボ対照二重盲検無作為化比較試験[688名,経口抗精神病薬(OAP)で安定した173名と持効性注射剤(LAI)で安定した515名]でのプラセボ群における,イベントまでの時間及び基準時点での予測因子を再解析した。

生存時間分析及びCox比例ハザード回帰分析を用いて,追跡終了時までの非再燃者の生存率,試験で確認された再燃率,基準時点での予測因子と関連する調整ハザード比(aHR)及び95%信頼区間(CI)を算出した。OAPとLAIとの比較においては,抗精神病薬中止後の残存作用時間の違いによる交絡因子を排除するため,イベント(打ち切りまたは再燃)までの時間が抗精神病薬中止後半減期の5倍未満の患者を解析から除外した。維持療法に用いられている抗精神病薬の半減期の5倍以上の期間追跡されている患者についても上記の数値を算出し,OAPで安定している患者において,抗精神病薬中止後30日以内に発症すると定義した「リバウンド精神病」の予測因子についても調査した。

結果

2004年3月~2014年4月に18ヶ国で実施された,統合失調症の再燃予防試験の五つのプラセボ群のデータが同定された。参加者は,抗精神病薬中止後最大480日[追跡期間中央値=118日,四分位範囲=52.0-208.0]まで追跡された。全体で,515名(74.9%)がLAIで,173名(25.1%)がOAPで安定していた。いずれの試験においてもパリペリドンのLAI及びOAPが投与されていた。中止前の前方視的抗精神病薬投与維持期間の中央値は198.0日(四分位範囲=121.3-239.0,幅=100-300日)であった。

非再燃の割合(95%CI)と再燃までの期間の中央値(四分位範囲)は,全体で29.9%(23.2-38.5)と199日(180-260),OAP群で11.1%(5.65-21.9)と87日(64-117),LAI群で36.4%(28.4-46.7)と294日(256-444)であった。OAP群はLAI群と比較し,追跡期間中に3倍以上再燃しやすかった(HR=3.56,95%CI:2.68-4.72)。試験で確認された再燃率は,全体で45.2%,OAP群で62.4%,LAI群で39.4%であった。再燃の予測因子としては,喫煙(aHR=1.54,95%CI:1.19-2.00),女性(aHR=1.37,95%CI:1.08-1.79), OAPで安定していたこと(LAIに対してaHR=3.56,95%CI:2.68-4.72)が挙げられた。

血漿中の抗精神病薬が消失するのに十分な期間にわたって追跡した患者328名のみで解析したところ,OAP群では非再燃はわずか11.3%(95%CI:5.8-22.2),再燃までの期間の中央値は49日(四分位範囲=15~107)であったのに対し,LAI群では非再燃は57.7%(95%CI:45.4%-73.4%),再燃までの期間の中央値は146日(四分位範囲=54~272)であり,OAP群の再燃リスクは有意に高いままであった(aHR=5.0,95%CI:3.5-7.1)。

リバウンド精神病については予測因子は見出されなかった。

考察と結論

本研究の限界として,追跡期間がより長ければ再燃率がより高かった可能性があること,LAI群とOAP群の間でサンプルサイズや追跡期間が不均衡であることなどがあるものの,本研究の結果から,症状安定後の抗精神病薬休薬に伴う再燃リスクが高いことが裏付けられ,安全な治療中止の予測因子は限られていることが明らかになった。LAIによる症状安定化は短期・中期の再燃リスクを低下させる。今後の研究では,抗精神病薬中止による再燃の臨床的生物学的マーカーを検討し,治療の指針にすることが望まれる。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(菊地 悠平)

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