抗精神病薬中断後の有害事象:参加者個人データのメタ解析

LANCET PSYCHIATRY, 9, 232-242, 2022 Adverse Events after Antipsychotic Discontinuation: An Individual Participant Data Meta-Analysis. Brandt, L., Schneider-Thoma, J., Siafis, S., et al.

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背景

抗精神病薬を中断した後に,身体的及び精神的な有害事象が起こる可能性がある。本研究では,抗精神病薬試験でプラセボに割り付けられた参加者における試験前の抗精神病薬中断が,スクリーニングまたは退薬期間開始後4週間以内の有害事象の発生率に及ぼす影響を評価することを目的とした。

方法

Yale大学オープンデータアクセスプロジェクトのデータベースを用いて検索を実施した(データベース開始から2021年5月6日までの期間)。統合失調症,統合失調感情障害,双極性障害の参加者(18歳以上)の個人データを含む,抗精神病薬を用いたプラセボ対照無作為化臨床試験を組み入れた。プラセボ投与開始時に抗うつ薬,リチウム,抗てんかん薬による併用治療が開始された研究は除外した。スクリーニングまたは退薬期間の開始時点から,プラセボに無作為に割り付けられた参加者を,中断群(スクリーニングまたは退薬期間の開始時に試験前の抗精神病薬を中断した参加者)と対照群(スクリーニングまたは退薬期間の開始前の少なくとも4週間に試験前の抗精神病薬を服薬していなかった参加者)の2群に分けた。抗精神病薬に無作為に割り付けられた参加者,基準時点の4週間前までに抗うつ薬・リチウム・抗てんかん薬による試験前の治療を中断した参加者,忍容性試験として抗精神病薬を投与された参加者,基準時点の過去12週間以内に抗精神病薬の持効性注射剤を投与された参加者は,中断群及び対照群から除外した。また,中断群において,中断開始がスクリーニングまたは退薬期間開始の4日以上前であった参加者.及びスクリーニングまたは退薬期間開始日よりも遅れて抗精神病薬の投与を中断した参加者は除外した。

主要評価項目は,スクリーニングまたは退薬期間開始後の4週間以内における,少なくとも一つの新たな身体的有害事象の発生とした。副次評価項目として別個の有害事象の発生率も検討した。

データ解析方法として,まず個々の研究ごとに解析を行い,そこから得られた個々の研究固有の推定値をメタ解析する2段階アプローチを用いた。すなわち,主要評価項目に対して,まず,潜在的な交絡因子(身体疾患歴の有無,過去24ヶ月における入院回数を基にした精神疾患の重症度,年齢,性別)を考慮した一般化線形モデルを導入し,そして変量効果モデルを用いて個々の研究の推定値のメタ解析を行った。事後解析の一つとして,最も頻回に中断(15名以上の参加者において中断)された抗精神病薬により層別化した解析を行った。主要評価項目の二次解析では,潜在的な予測因子(抗精神病薬の中断,複数の抗精神病薬の中断,中断前の抗精神病薬治療期間,中断前の抗精神病薬の用量,中断方法)の影響を推定した。

結果

409件の研究が探索され,18件が解析に組み入れられた。この18研究のスクリーニングまたは退薬期間に含まれた8,654名の参加者のうち,1,627名が適格となり,中断群に692名(女性242名),対照群に935名(女性339名)が割り付けられた。両群の年齢の中央値は39歳であった。

新たな身体的有害事象は,中断群で295名(43%),対照群で293名(31%)に発生した[オッズ比(OR):1.74,95%信頼区間(CI):1.27-2.39;τ²=0.15;中程度のエビデンスの強さ)。また,新たな精神的有害事象の発生率も,対照群よりも中断群で高かった(OR:2.01,95%CI:1.38-2.94)。副次評価項目の結果として,不安(OR:3.27,95%CI:1.50-7.11),下痢(OR:3.03,95%CI:1.21-7.56),不眠(OR:1.96,95%CI:1.21-3.19)の発生率は対照群よりも中断群で高かった。

頻回に中断された抗精神病薬によって層別化した事後解析の結果,不眠症などの有害事象は,ziprasidone*,クエチアピン,オランザピン,リスペリドン,クロルプロマジン,ハロペリドールの中断後に対照群よりも発生率が高く,一方,クエチアピンの投与中断後には,対照群に比べ,掻痒症や発疹などの発生率が高かった。

また,中断前の治療期間が長いことは抗精神病薬中断後の身体的有害事象の発生率の高さと関連し(治療期間が2倍であった場合のOR:1.08,95%CI:1.01-1.14),漸減中断(突然の中断と比較した場合のOR:0.54,95%CI:0.32-0.91),及び身体疾患歴なし(身体疾患歴ありと比較した場合のOR:0.63,95%CI:0.43-0.91)は,抗精神病薬中止後の身体的有害事象の発生率の低さと関連していた。

結論

抗精神病薬の中断後に新たな身体的有害事象が出現し得るという中程度のエビデンスが示された。本研究デザインは,精神医学以外の分野における治療中断の影響を検討する際にも応用可能であろう。

*日本国内では未発売

255号(No.3)2022年8月8日公開

(吉田 和生)

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