暴力歴のある統合失調症患者の神経認知的特徴,心理的特性,社会機能

J PSYCHIATR RES, 147, 50-58, 2022 Neurocognitive Features, Personality Traits, and Social Function in Patients With Schizophrenia With a History of Violence. Kashiwagi, H., Matsumoto, J., Miura, K., et al.

背景

統合失調症のような精神病性障害の患者は,わずかではあるが有意に高い他害リスクを有することが報告されている。暴力は家族やその他のサポート資源を疲弊させ,患者自身の社会復帰を困難にさせる。

認知機能と暴力との関連を調べた研究はいくつかあるが,サンプルサイズの小ささ,暴力の定義の違い,診断のバラつき(統合失調症のみか,あるいは統合失調感情障害や妄想性障害も含むのか),使用された神経認知検査のバラつき,環境の違い(たとえば医療観察法病棟もしくは一般精神科病棟)によって,結果は一貫性に欠く。また,大規模なデータベースを用いて,臨床項目,確立された神経認知検査,性格特性などを幅広く調査した研究はこれまでにない。本研究の目的は,これまでの研究よりも大規模な集団において,確立された神経認知検査と臨床評価を用いて多面的に評価することにより,リスク評価と介入研究のためのリソースを提供することである。

方法

Cognitive Genetics Collaborative Research Organization(COCORO)データベースから,1,265名の健常者と355名の統合失調症患者[暴力歴のある患者(V-SZ)112名,暴力歴のない患者(NV-SZ)243名]を含む,合計1,620名のデータを抽出した。暴力歴は,本研究のために作成した半構造化面接により,被験者本人とその家族から聴取した。

日本語版WAIS-Ⅲにより知能指数(IQ)を評価した。神経認知の評価にはウエクスラー記憶検査改訂版(WMS-R),ウィスコンシンカード分類課題(WCST),言語流暢性テスト(VFT),Rey聴覚的言語性記憶検査(AVLT),同一ペア版連続性能試験(CPT-IP)を,社会認知には社会認知機能質問票(SCSQ),顔面感情ラベリングテスト(FELT),Neutral Face Rating Test(NFRT)を用いた。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS),薬に対する構えの評価尺度10項目版(DAI-10),病識評価尺度日本語版(SAI-J),気質性格検査(TCI)によりそれぞれ,精神症状,抗精神病薬治療への態度,病識,性格特性を評価した。社会機能と生活の質(QOL)の評価には,全体的機能評定尺度(GAF),社会活動評価(SAA),社会機能尺度(SFS),統合失調症生活の質尺度(JSQLS)を使用した。

知能,認知機能,性格特性,社会機能,臨床因子,QOLは,一般線形モデルを用いて群間で比較した。ステップワイズ法によるロジスティック回帰分析を使用し,暴力歴の予測因子を調べた。

結果

V-SZ群においては,他群よりも男性が多かった(p=1.8×10−3)。

IQと記憶機能の全てのドメインが,健常群と比べて患者群において有意に障害されていた。視覚記憶は,V-SZ群において,NV-SZ群と比べてより顕著に障害されていた(p=1.9×10−5,Cohenのd=0.34)。

総入院期間は,NV-SZ群よりもV-SZ群の方が長かった(p=5.9×10−4,Cohenのd=0.38)。興奮の要素(PANSSの興奮,敵意,非協調性,衝動性の調節障害の評点の合計)は,NV-SZ群と比べてV-SZ群の方が高かった(p=1.6×10−4,Cohenのd=0.47)。

性格特性は,患者群と健常群とでは差があったが,V-SZ群とNV-SZ群の間で差があったのは自己超越のみであった(V-SZ群<NV-SZ群,p=1.8×10−4,Cohenのd=0.46)。

SAAで報告された労働時間/週は,NV-SZ群と比べて,V-SZ群において短かった(p=4.8×10−4,Cohenのd=0.53)。SFSの就労/労働機能評点も,NV-SZ群よりもV-SZ群の方が悪かった(p=3.2×10−6,Cohenのd=0.36)。

考察

本研究では,比較的大きなデータベースを用いて,一般精神科病棟における暴力歴のある統合失調症患者の特徴を調べた。暴力歴のある患者における,高い男性の割合,低い就業率,長い入院期間や興奮症状の重さは,先行研究からも報告されている。暴力歴と,今回明らかになった相関因子(低い視覚記憶,自己超越性の高い性格傾向や短い総労働時間など)との関係のメカニズムや神経基盤についての研究が,効果的な治療法の発展に繋がることが期待される。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(上野 文彦)

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