スタンフォード・ニューロモデュレーション治療法(SNT):二重盲検無作為化対照研究

AM J PSYCHIATRY, 179, 132-141, 2022 Stanford Neuromodulation Therapy (SNT): A Double-Blind Randomized Controlled Trial. Cole, E. J., Phillips, A. L., Bentzley, B. S., et al.

背景

うつ病は重大な疾患であるが,その約半数が治療抵抗性とされる。間欠的シータ‐バースト刺激(intermittent theta-burst stimulation:iTBS)は治療抵抗性うつ病の治療法として米国食品医薬品局(FDA)に認可されているが,効能が不十分で,治療期間が6週間であるという限界がある。

そこで著者らはこれらの限界に対処すべく,神経科学に基づく加速型iTBSプロトコルである,スタンフォード・ニューロモデュレーション治療法(SNT)を開発した。従来のiTBSと異なる点は,機能的核磁気共鳴画像(MRI)を用いて,パルス波を照射する効果が高い脳部位を個人に合わせて調整すること,また,1回照射当たりのパルス量が多く,5日間集中的に行うことである。

当プロトコルによって,先行研究では5日間の非盲検治療後に約90%の寛解率が得られた。本研究では,治療抵抗性うつ病に対するSNTのシャム対照二重盲検試験の結果について報告する。

方法

スタンフォード大学精神科において,17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)とモンゴメリ・アスベルクうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)が20点以上の中程度~重度のうつ病エピソードがあり,22~80歳で,Maudsley Staging Methodにより治療抵抗性レベルが中等度~重度である患者を対象とした。反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の治療歴がある者や電気痙攣療法(ECT)治療が無効であった者などは除外した。

実治療群とシャム群に無作為化し,安静時の機能的MRIでパルス照射部位(左外側前頭前皮質)を特定した後,iTBSを1日10セッション(18,000回照射/日),5日間連続で施行した。施行前後でHAM-D,MADRS,ヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale),Quick Inventory of Depressive Symptomatology–Self-Report,希死念慮評価尺度(Scale for Suicide Ideation)による検査,及び神経心理学的検査を施行した。

主要転帰は,SNT施行4週後のMADRS得点とした。

結果

オンラインでスクリーニングを行った182名のうち,54名に対面スクリーニングを行い,32名を無作為化し,最終的に14名(平均年齢49歳)が実治療群,15名(平均年齢52歳)がシャム群となった。人口統計学的特性は両群で同等であった。

治療4週後のMADRS減少は基準時点に比べて,実治療群52.5%,シャム群11.1%で,Cohenのdは1.4であった。治療4週後の寛解(MADRSが10点以下)率は,実治療群では46.2%,シャム群では0%であった。HAM-D及びQIDS-SRについても同様の結果であった。

神経心理学的検査の成績は両群とも治療前後で大きな変化はなかったが,言語処理スピードには実治療群のみで有意な改善が認められた(p=0.03)。

限界

本研究の限界としては,対象者数が少ないこと,寛解の指標に生物学的指標がないこと,単施設研究であること,対象者の45%が精神疾患を併存していたこと,が挙げられる。

結論

機能的MRIでパルス照射部位を特定し,高用量の照射を5日間施行するSNTは,治療抵抗性うつ病患者においてシャム刺激よりもうつ症状の低減に有効であった。今後,SNTの効果持続性や他の治療法との比較など,更なる評価が必要である。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(尾鷲 登志美)

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