産後うつ病に対する産後うつ病経験者による認知行動療法:無作為化対照試験

J CLIN PSYCHIATRY, 83, 21m13928, 2022 Peer-Delivered Cognitive-Behavioral Therapy for Postpartum Depression: A Randomized Controlled Trial. Amani, B., Merza, D., Savoy, C., et al.

はじめに

産後うつ病は20%の母親に認められるが,そのうち15%しかエビデンスに基づいたケアを受けていない。専門家によるケアを受けるには心理的・資源的・金銭的な障壁が存在しているため,ピアによる介入は,これらの複数の障壁を考えると有効な代替方法である。しかしながら,現在までのところピアによる介入の有効性に関する研究結果は一致していない。

本研究の目的は,産後うつ病を経験した女性による9週間の集団認知行動療法が産後うつ病に有効かどうかを調査し,治療が不安,社会的サポート,母子関係に与える影響を調査することである。

方法

本研究の対象は,18歳以上で,12ヶ月未満の子どもがおり,英語を流暢に話せ,エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)が10点以上の母親とした。

2018年3月~2020年2月に募集された患者を,ピアファシリテーターによる週1回2時間の集団認知行動療法を9週間受ける群(介入群)と,9週間の待機リストに入る群(対照群)に無作為に割り付けた。ピアファシリテーターは産後うつ病から回復した人で,トレーニングとして2日間の講義,9週間の認知行動療法の見学,ペアによる認知行動療法の実践が行われた。

評価項目

研究組み入れ時及び9週間後に,主要転帰としてEPDSと精神疾患簡易構造化面接法(Mini-International Neuropsychiatric Interview:MINI)により抑うつ状態の評価を行って大うつ病の診断を確認し,副次転帰として7項目版全般不安症尺度(7-item Generalized Anxiety Disorder scale:GAD-7)により不安,Social Provisions Scale(SPS)により社会的サポート,Postpartum Bonding Questionnaire(PBQ)により母子関係の評価を行った。更に,治療効果の持続性を評価するために,組み入れから6ヶ月後にも同様の項目の評価を行った。介入群では,治療終了後にScale to Assess the Therapeutic Relationship-Patient(STAR-P)を用いて治療者患者関係を評価した。

統計

介入による効果の比較には線形混合効果モデルを用いた。また,臨床的な抑うつ状態改善率(EPDSが4点以上減少しかつ10点未満になった場合を回復,4点以上減少しかつ10点以上となった場合を改善,4点以上増加した場合を悪化,3点以下の減少を不変とした),うつ病の寛解率に関してはロジスティック回帰分析を用いた。9週間後と6ヶ月後の抑うつ状態の変化に関しては,Pearsonの相関係数を用いて評価した。

結果

54名(介入群27名,対照群27名)の患者が組み入れられ,38名が9週間後の評価を受け,介入群群27名のうち17名が6ヶ月後の評価を受けた。基準時点における介入群のEPDSは平均16.0点であり,70.4%が大うつ病と診断された一方,対照群のEPDSは平均16.8点であり,65.4%が大うつ病と診断され,両群に有意な差は認められなかった。

9週間後,介入群でEPDS評点は有意に改善した(F1,47=22.52,p<0.01)。介入群の40.9%が回復し,54.5%が改善し,4.5%が悪化した一方で,対照群の6.3%が回復し,31.3%が改善し,25.0%が悪化,37.5%が不変であり,有意な差が認められた(p<0.01)。GAD-7評点は介入群で有意に改善した(F1,45=20.56,p<0.01)。SPS及びPBQには,両群で差は認められなかった。

介入群における9週間後と6ヶ月後のEPDS評点の比較では,有意な差は認められなかった。STAR-Pの結果からは,ピアの治療者との良好な関係性が示唆された。

結論

ピアによる集団認知行動療法は,産後うつ病の抑うつ及び不安を改善した。ピアによる介入は有効で,産後うつ病患者の治療アクセスを増加させるために有効な手段となる可能性がある。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(石田 琢人)

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