初回うつ病エピソード後の日常生活機能及び認知機能の障害:系統的レビュー

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 156-185, 2022 Functional and Cognitive Impairment in the First Episode of Depression: A Systematic Review. Varghese, S., Frey, B. N., Schneider, M. A., et al.

背景と目的

大うつ病の患者では,臨床的な寛解期においても認知機能障害が残存することがメタ解析で示されており,特に寛解後に残存する症候が,その後長期にわたる心理社会的障害や微細な神経認知障害の原因になると推測されている。また,最近の報告では,気分障害の患者は疾病経過のごく早期から障害福祉サービスを利用していることが知られており,リカバリーに焦点を当てた早期介入の必要性が示唆されている。

今回著者らは,初回うつ病エピソード(first episode of depression:FED)後の患者の認知機能障害や全体的機能障害〔訳註:社会的・職業的・心理的機能を含む全体的な機能。通常機能の全体的評定(Global Assessment of Functioning:GAF)などによって評定される〕について,反復性うつ病(recurrent depression:RD)あるいは健常対照と比較した文献,及びFED後の認知機能や全体的機能の経時的変化を評価した文献の系統的レビューを行った。

方法

2020年2月21日時点で,PubMed,PsycINFO,EMBASEといったデータベースを用いて関連する文献を抽出した。

結果

最終的に52報の文献を対象に系統的レビューを行った。全体のうち,32報がFED群と健常対照群の認知機能を,11報がFED群とRD群の認知機能を比較していた。10報はRD群とFED群との全体的機能を比較し,4報はFED群の認知機能の経時的変化を,2報はFED群の全体的機能の経時的変化を評価していた。

FED群と対照群の認知機能を比較した32報のうち22報(68.8%)が,FED群の認知機能の有意な低下を示しており,領域別では処理速度(n=12),遂行機能及び作動記憶(n=11),言語学習や言語記憶の低下(n=8)が多かった。

FED群とRD群の認知機能を比較した11報のうち7報(63.6%)が,FED群に比較してRD群の認知機能の有意な低下を示しており,領域別では言語学習や言語記憶の低下(n=4)が最多で,その他は遂行機能及び作動記憶(n=2),処理速度(n=2)などであった。

RD群とFED群の全体的機能障害の比較では,10報のうち7報(70%)で有意な差が認められなかった。

FED群の認知機能を経時的に評価した4報の縦断研究のうち,3報は直接的な評価ではなくサブグループ解析が用いられていたが,残りの1報で,対照群に比べてFED群で経時的な認知機能の悪化が認められた。一方で,FED群の全体的機能を経時的に評価した2報の縦断研究では,経時的な全体的機能の改善が認められた。

考察

今回の結果から,うつ病では,初回エピソードの時点ですでに認知機能障害を呈すること,更に複数回のエピソードがあるとより認知機能は大きく障害されるという強いエビデンスが得られた。

一方で,全体的機能障害については,RD群と健常対照群を比較した研究が1報もなかったのは意外であった。また,今回の研究では,FED群とRD群との間で全体的機能障害の有意な差はなかったが,多くの先行研究ではうつ病エピソードを反復するほど機能障害の程度は重くなると報告されている。この結果の不一致の原因は,今回レビューした文献間で機能障害の検査方法が多様であったことかもしれない。

初回うつ病エピソード後の全体的機能の推移を調べた2報の文献では,機能障害が経時的に有意な改善を示していたが,これらの文献では全被験者が基準時点で抑うつ症状を呈していたことから,単にうつ病の症状の改善を反映したものかもしれない。

今後,初回エピソード後の認知機能障害及び全体的機能障害の予測因子を同定するための研究が待たれる。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(荻野 宏行)

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