躁症状,睡眠障害及び認知機能に対する補助的クロニジン療法の効果―双極I型障害躁病相を対象とした二重盲検プラセボ対照無作為化試験より

J PSYCHIATR RES, 146, 163-171, 2022 Influence of Adjuvant Clonidine on Mania, Sleep Disturbances and Cognitive Performance-Results from a Double-Blind and Placebo-Controlled Randomized Study in Individuals With Bipolar I Disorder during their Manic Phase. Ahmadpanah, M., Pezeshki, R., Soltanian, A. R., et al.

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背景

双極性障害はうつ病相と躁病相の間で精神症状が変動することで,患者の学業・職業・社会・認知・感情・行動・経済上の安定が阻害される。また,双極Ⅰ型障害は,躁病相の短期間にも,人生にわたる長期間のいずれにおいても認知機能障害を示す。

睡眠障害は双極Ⅰ型障害における中心的症状であり,適切な覚醒睡眠リズムを導入することが疾患に対する補助的治療となり得ることから,睡眠の重要性が注目されている。

降圧薬のクロニジンはアドレナリンα2受容体作動薬であり,1980年代半ばより双極性障害躁病相において,単独または補助療法として使用されてきた。そして,その効果は比較的小規模の症例対照研究や,対照群を置かない非盲検試験により確認されてきた。

本研究では,先行研究よりも大きなサンプルサイズを用いた二重盲検プラセボ対照試験により,双極Ⅰ型障害躁病相に対するクロニジン補助療法の効果を検証した。主要評価項目は試験開始24日後における躁症状とした。また,双極性障害における認知機能障害及び睡眠障害の重要性を鑑み,探索的評価項目として試験開始24日後における主観的睡眠の質及び認知機能を評価した。

方法

イランのSina病院に入院中で,主な組み入れ基準として以下を満たす双極性障害患者を対象とした。①18~65歳,②DSM-5の双極Ⅰ型障害の基準を満たす,③ヤング躁病評価尺度(YMRS)の総点が20点以上,④2年以内に少なくとも1回以上双極性障害を理由に入院歴がある。

標準的な薬物療法として,全例にリチウム900~1,200mg/日,治療血中濃度(0.5~1.5mmol/L)となるように投与を行った。クロニジン投与群では,通常治療に加えて0.2~0.6mg/日のクロニジン投与を行い,プラセボ群はクロニジンと形状・色・重さ・匂いが同じ錠剤を投与した。

躁症状はYMRS,主観的睡眠の質はピッツバーグ睡眠質指数(Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI),認知機能はミニメンタルスティト検査(Mini Mental State Examination:MMSE)により評価した。

結果

84名が研究に組み入れられ,クロニジン投与群とプラセボ群で,それぞれ7名が割り付け後に研究から脱落し,最終的に70 名が解析の対象となった。年齢はクロニジン群,プラセボ群でそれぞれ36.9歳,38.0歳で,男性はそれぞれ31名(86.1%),28名(82.3%)であった。

両群とも,時間の経過と共にYMRS評点は有意に減少し(主効果 η2=0.790),クロニジン群ではより大きい改善が認められた(交互作用η2=0.098)(図)。同様に,時間の経過と共にPSQIは改善し(主効果η2=0.550),プラセボ群と比較してクロニジン群でより顕著であった(交互作用η2=0.097)。MMSEに関しては,時間の経過と共に改善したが(主効果η2=0.129),MMSEの改善はプラセボ群とクロニジン群では有意差がなかった。

考察

双極Ⅰ型障害躁病相に対するクロニジン補助療法は躁症状及び主観的睡眠の質を改善したが,認知機能に対しては効果が確認できなかった。

本研究では,抗コリン薬や三環系抗うつ薬の併用がある場合,希死念慮を有する場合,物質使用障害・パーソナリティ障害・心的外傷後ストレス障害・適応障害を含む重症の精神障害の併存がある場合は対象から除外されているために,いわゆる「純粋な」双極性障害患者のみが組み入れられている。また,組み入れられた大半が男性であるために,研究結果の一般化には注意を要する。更に,認知機能改善に関しては,24日間という試験期間では十分に評価できない可能性がある,などの限界がある。

図.クロニジン群とプラセボ群における基準時点、12日後、24日後のヤング躁病評価尺度の評点

255号(No.3)2022年8月8日公開

(内田 貴仁)

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