双極性障害による急性興奮に対するデクスメデトミジン舌下投与とプラセボ投与の比較検討:無作為化臨床試験

JAMA, 327, 727-736, 2022 Effect of Sublingual Dexmedetomidine vs Placebo on Acute Agitation Associated With Bipolar Disorder: A Randomized Clinical Trial. Preskorn, S. H., Zeller, S., Citrome, L., et al.

背景

National Hospital Ambulatory Medical Care Surveyによると,2018年の双極性障害の救急外来受診者数は推定215,000人で,双極性障害による興奮のエピソードが少なくない。近年の興奮のマネジメントのガイダンスでは言語的・非言語的なアプローチにより興奮を抑えることを推奨しており,可能な限り非侵襲的な介入が望ましいとされている。

双極性障害の興奮に対する薬物療法で適応があるものはオランザピンの筋注とloxapine*の吸入であるが,実際は抗精神病薬やベンゾジアゼピン,ケタミンなどが使用されることも多い。

デクスメデトミジンはα2アドレナリン受容体作動薬で,静脈注射で鎮静や麻酔に使用されている。本研究の目的は,デクスメデトミジン舌下投与が双極性障害による急性興奮を軽減するかどうかを検討することである。

方法

本研究は米国の15施設で2020年2~5月に行われた第Ⅲ相無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。18~75歳の双極Ⅰ型またはⅡ型障害の成人を対象とし,陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の興奮に関連した5項目の興奮下位尺度(PANSS excited component:PEC)合計点が14点以上(5点:興奮がない~35点:著しい興奮)の対象者を組み入れた。対象者はデクスメデトミジン舌下錠180μg群(127名),デクスメデトミジン舌下錠120μg群(127名),プラセボ群(126名)の3群に割り付けられた。

主要評価項目は,PEC合計点の基準時点から2時間後の変化とした。副次評価項目は,デクスメデトミジン群とプラセボ群との間で,PEC総評点の基準時点からの変化において統計的に有意な群間差が観察されるまでの時間とした。

結果

組み入れられた対象者380名(平均年齢45.6±11.6歳,女性54.8%,黒人56.1%)のうち,2名で無作為化のエラーがあったため効能の評価が可能であったのは378名(99.5%)で,試験を完了したのは362名(95.3%)であった。基準時点のPEC総評点は18.0であり,デクスメデトミジン群とプラセボ群で差はなかった。

主要評価項目である服薬2時間後のPEC合計点の変化±標準偏差は,デクスメデトミジン180μg群で-10.4±4.4,デクスメデトミジン120μg群で-9.0±5.3,プラセボ群で-4.9±4.7であった。服薬2時間後のデクスメデトミジン群のプラセボ群との最小二乗平均差は,180μg群で-5.4(97.5%CI:-6.6--4.2),120μg群で-4.1(97.5%CI:-5.3--2.9)であった(共にp<0.001)。

副次評価項目であるPEC総評点の変化に有意な群間差が生じるまでの時間は,デクスメデトミジン服薬後20分であった[180μg群では最小二乗平均差-1.1(97.5%CI:-2.0--0.2,p=0.007),120μg群では-1.0(97.5%CI:-1.9--0.1,p=0.009)]。

有害事象は,デクスメデトミジン180μg群の35.7%,120μg群の34.9%,プラセボ群の17.5%に発生した。最も多く観察された有害事象は,傾眠(180μg群,120μg群,プラセボ群でそれぞれ21.4%,20.6%,4.8%),口渇(同4.8%,7.1%,0.8%),低血圧(同6.3%,4.8%,0%),めまい(同5.6%,5.6%,0.8%)であった。

考察

双極性障害による軽度~中等度の興奮状態の患者に対するデクスメデトミジン投与は,2時間後のPEC総評点を低下させた。またどちらの用量においても治療効果は20分程度で観察された。観察されたエフェクトサイズの臨床的重要性をより理解するためには,更なる研究が必要である。

*日本国内では未発売

255号(No.3)2022年8月8日公開

(岩田 祐輔)

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