小児期の虐待と双極性障害の臨床経過との関係:気分障害の再発の生存率分析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 373-383, 2022 Association between Childhood Maltreatment and the Clinical Course of Bipolar Disorders: A Survival Analysis of Mood Recurrences. Laroche, D. G., Godin, O., Belzeaux, R., et al.

背景

小児期の被虐待経験は双極性障害(BD)の罹患リスクを高くする因子であることが示されている。小児期の虐待(ネグレクト及び狭義の虐待)の報告は,一般人口に比較してBDの人でより多いとされている。小児期の虐待経験は,BDエピソードの回数も増加させると言われているが,それを示した研究のほとんどは後方視的研究であり,数少ない縦断研究では正式な生存分析を行ったものはなかった。再発の予防はBD治療の土台となるものであり,小児期の虐待経験とBD再発までの期間についての前方視的研究が必要とされていた。

方法

本研究の対象は,フランスのFondaMental Advanced Centers of Expertise in BD(FACE-BD)と呼ばれるネットワークに登録された,16歳以上で,DSM-IVの診断基準によりBDと診断された外来患者とした。

小児期の虐待の評価には,心理的ネグレクト,心理的虐待,身体的ネグレクト,身体的虐待,性的虐待の5種類の虐待と重症度を評価できる幼児期心的外傷質問票(Childhood Trauma Questionnaire:CTQ)を用いた。CTQの合計点が75パーセンタイルを超えたものを複合的/重度の虐待とし,5種類の虐待それぞれについて,「なし/軽度」と「中等度/重度」の二つに分けて評価した。

BDの再発は,「躁状態,軽躁状態,躁うつ混合状態,うつ状態のいずれかの基準を満たした新規のエピソードの発生」と定義した。

再発した正確な日付は不明なため,危険因子と観察期間中の最初の再発との関連の分析には区間打ち切り生存分析を行った。また再燃の累積確率推定のため,区間打ち切りデータに対しKaplan-Meier解析のターンブル法を用いた。

結果

2,008名の対象者のうち,60.7%が女性で,平均年齢は41.5歳,BD Ⅰ型が48.0%,同Ⅱ型が42.1%,BD特定不能型(NOS)が9.9%であった。平均発症年齢は24.3歳,平均気分エピソード数は8.99回であった。CTQの合計評点の平均は42.3点で,67.7%がいずれかのネグレクト経験があり,58.5%がいずれかの狭義の虐待経験があった。平均追跡期間は18.3ヶ月,中央値は22.3ヶ月[四分位範囲(IQR)12.0~24.8]であった。55.8%で追跡期間中に1回以上の再発気分エピソードが認められた。再発までの平均期間は11.6ヶ月であった。再発初回のエピソードは46.5%が抑うつ状態,19.1%が躁状態もしくは軽躁/躁うつ混合状態であった。34.4%で極性の異なる複数の再発が認められた。

単変量解析では,複合的/重度の虐待例では,再発までの期間が短くなるリスクが高くなり[ハザード比(HR)=1.41,95%信頼区間(CI):1.24-1.62,p<0.0001],身体的ネグレクト以外の4種の虐待で,「中等度/重度」は「なし/軽度」に比較し有意な差を持って再発までの期間の短さと関連していた(HRは,身体的虐待1.44,性的虐待1.28,心理的虐待1.27,心理的ネグレクト1.23)。

多変量解析でも,複合的/重度の虐待例はHR=1.32(95%CI:1.11-1.57,p=0.002),中等度/重度の身体的虐待例はHR=1.36(95%CI:1.07-1.71,p=0.01)と,再発までの期間の短さと関連していた。社会人口統計学的及び症候学的因子では,独居,不安症,気分障害エピソードの回数,基準時点での抑うつ状態及び(軽度)躁状態,現在の非定型抗精神病薬の使用が,再発までの期間の短さとの関連があった一方,急速交代型,アルコール使用障害,睡眠障害などは関連がなかった。

結論

今回の大規模前方視的研究により,これまでに知られている再発の危険因子だけでなく,小児期の虐待経験(中でも身体的虐待)がBDの経過に影響を与える可能性が示唆された。従って,小児期の虐待という人生初期のストレス因子に曝された人には,より緻密な追跡が必要と考えられる。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(真鍋 淳)

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