主要な神経認知障害を有する高齢者における向精神薬の使用状況:スウェーデン国内登録による横断的研究

EUR J CLIN PHARMACOL, 78, 477-487, 2022 Psychotropic Drug Use Among Older People With Major Neurocognitive Disorder: A Cross-Sectional Study Based on Swedish National Registries. Kindstedt, J., Sjölander, M., Lövheim, H., et al.

背景

高齢者の薬物療法には向精神薬が含まれることが多く,これらの薬剤の多くは,ドパミンやアセチルコリンのシグナル伝達に悪影響を及ぼすため,特に神経認知障害(NCD)の患者で問題となる。更に,負担の大きい神経精神症状(NPS)が複数存在し,これは経時的に出現して,主要なNCD亜型間で大幅に異なる。このNPSの治療には向精神薬が関連することが多い。

本研究は,主要なNCDと診断されたスウェーデンの高齢者に対する向精神薬の使用,及びそれに関連する因子について説明することを目的とする。

方法

主要なNCDを持つ高齢者の向精神薬に関する情報を収集するために,スウェーデン国内の認知症/認知機能障害に関する登録簿(SveDem)と,処方薬に関する登録簿を個人識別番号により関連付けた。研究対象者は,SveDemに登録された,65歳以上で,2007年5月1日~2017年12月31日にNCDと診断され,2017年12月31日時点で生存している者38,251名とした。

向精神薬の使用量は,スウェーデン国内の地域薬局の調剤データに基づいて推定した。これらのデータは国内の処方薬登録簿に記録されているものであり,そこから2017年7月1日~12月31日の6ヶ月間に向精神薬の処方箋に関する情報を後方視的に収集した。薬剤使用は,この期間に調剤された処方箋が一つ以上あることと定義した。このプロセスは解剖治療化学(ATC)分類システムに従って,抗精神病薬(N05A),抗不安薬(N05B),鎮静薬及び催眠薬(N05C),抗うつ薬(N06A)抗認知症薬(N06D)のサブグループに分類した。SveDemのNCD亜型は,早期発症アルツハイマー型認知症(AD),後期発症AD,血管性認知症(VaD),ADとVaDの混合型,レビー小体型認知症(DLB),前頭側頭型認知症,パーキンソン病認知症(PDD),特定不能の認知症,その他の認知症とし,この分類は国際疾病分類第10改訂版(ICD-10)の特定コードに対応したものである。混合型,特定不能,その他の認知症の症例を除いた21,885名の集団において,同じ6ヶ月間の向精神薬の使用と四つの単純化した主要NCD亜型(非混合型AD,前頭側頭型認知症,非混合型VaD,レビー小体認知症(PDDまたはDLB))の関連を検討した。

データの取り扱い,計算,解析には,IBM SPSS Statistics 25版とSAS Enterprise Guide 7.1版を使用した。全ての統計学的検定においてp値<0.05を有意と見なし,オッズ比を95%信頼区間と共に算出した。向精神薬の処方箋を持つ人の割合の性差は,ピアソン・カイ二乗検定を用いて分析した。向精神薬のATCサブグループと主要なNCD亜型との関連性を分析するために多重ロジスティック回帰を適用した。

結果

使用頻度が高かった向精神薬は,メマンチン,ドネペジル,ミルタザピン,オキサゼパム,ゾピクロンであり,いずれも使用率は20%程度かそれ以上と推定された。また,抗精神病薬の使用率は10.9%(VaDや後期発症AD)から25.4%(PDD)までと幅がある一方,他の向精神薬では抗認知症薬を除くとNCDの種類による使用率の幅は小さかった。

NCDの様々なサブグループにおける薬物使用に関するロジスティック回帰分析では,抗精神病薬及び抗認知症薬を除く全てのATCサブグループにおいて,向精神薬の処方は女性で有意に多かった。

結論

向精神薬は主要なNCDを持つスウェーデンの高齢者に頻繁に調剤されてきた。レビー小体認知症患者では抗精神病薬の副作用が出やすいため,特に抗精神病薬の使用は懸念される。向精神薬の処方を制限することにより,主要なNCD患者における薬剤関連事象をより減らす可能性がある。しかし,この脆弱な集団における向精神薬使用の妥当性についてより良い評価を行うためには,縦断的で比較に基づくアプローチが必要である。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(渡邉 慎太郎)

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