境界性パーソナリティ障害に対する対人関係療法はどのように脳を変えるか:fMRI研究

J CLIN PSYCHIATRY, 83, 21m13918, 2022 How Interpersonal Psychotherapy Changes the Brain: A Study of fMRI in Borderline Personality Disorder. Bozzatello, P., Morese, R., Valentini, M. C., et al.

背景

近年,境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:BPD)向けの対人関係療法[interpersonal psychotherapy(IPT) adapted for BPD(IPT-BPD)]が導入され,著者らはその改定版(IPT-BPD-R)を提唱した。BPDに対する精神療法の治療効果は研究されている一方,症状改善に伴う脳機能の変化に関してはよくわかっていない。これまでの脳画像研究からは,精神療法は前帯状皮質(anterior cingulate cortex:ACC),眼窩前頭皮質,背外側前頭前皮質(dorsolateral prefrontal cortex:DLPFC)などの前頭前野領域を動員し,前頭前野と辺縁系の機能的結合性を高め,島皮質や扁桃体などの辺縁系領域の脳活動を減少させることが示唆されている。これまでにBPDに対するIPTの脳活動への影響を調べた研究はない。本研究では,IPT-BPD-Rを10ヶ月受けた患者と10ヶ月の待機患者の脳活動の変化を,機能的核磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いて調べた。

方法

併存症のない,DSM-5のBPDの基準を満たす43名の患者が本研究に参加した。これらの参加者は,IPT-BPD-Rを受ける群(22名)と待機群(21名)の2群に無作為に割り付けられた。

全参加者は臨床評価と共に,fMRIのタスク設定のため自伝的検査(Autobiographical Interview:AI)を受けた。この検査で,解決されたあるいは解決されていないライフイベントを参加者ごとに設定し,それぞれのイベントを思い出すキーワードを設定した。

2群とも,治療前後に約10ヶ月の間隔で2回fMRIのセッションに参加した。fMRIの撮像中のタスクとして,AIで設定した2種類のライフイベント,ニュートラルなイベントを思い出す課題をそれぞれ8回ずつ,合計24回行った。解決されたあるいは解決されていないライフイベント想起中の脳活動とニュートラルなイベント想起中の脳活動の差を計算した。

fMRI画像の解析はStatistical Parametric Mapping 12(SPM12)を用いて前処理を行い,一般線形モデルを用いて解析した。2群の縦断解析にはFull-factorialデザインを用いた。過去の研究をもとにa prioriな仮説として,ACC,DLPFC,右側頭頭頂接合部(right temporal parietal junction:rTPJ)に関心領域を設定し,small volume correctionを行った。

結果

臨床評価尺度の評点は,IPT-BPD-R群で有意に改善した。解決されていないライフイベント想起中の脳活動は,待機群に比べてIPT-BPD-R群のrTPJ(p=0.043)と右ACC(rACC)(p=0.021)で優位に低下した。これらの脳領域の脳活動性の低下と臨床症状の改善度に優位な相関が認められた(rTPJ:p=0.022,rACC:p=0.016)。解決されたライフイベント想起中の脳活動の変化には,両群間で有意な差は認められなかった。

考察

本研究の結果は,IPT-BPD-RのBPD症状に対する有効性は,自己,社会認知,メンタライゼーションに関連した脳領域の機能的変化によって生じていることを示唆している。

BPDに対する他の精神療法の脳活動への影響を調べた研究では,ACCの活動性の低下は一貫して認められている。ACCは自己ではなく他者の心理状態に向かう際に活動する脳領域であり,精神療法の効果のターゲットと考えられている。

本研究の限界は,精神障害の併存のない患者のみを参加者としたため,臨床的なBPDを代表していない可能性があることである。また,fMRIのタスクとして解決されているあるいは解決されていないライフイベントを用いたが,BPD患者は自己概念が不安定でライフイベントに対する意見も変化しやすいため,これも本研究の限界である。ただし,本研究ではこの限界に対してfMRI撮像前にライフイベントについて解決されているかどうかを確認した。

結論

BPDに対する対人関係療法の臨床効果は,心の理論やメンタライゼーションに関連する脳部位の機能変化と関連している。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(髙宮 彰紘)

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