選択的セロトニン再取り込み阻害薬と自殺関連行動:全住民ベースのコホート研究

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 817-823, 2022 Selective Serotonin Reuptake Inhibitors and Suicidal Behaviour: A Population-Based Cohort Study. Lagerberg, T., Fazel, S., Sjölander, A., et al.

背景

自殺関連行動の危険因子に気分障害があるが,これに対して抗うつ薬は主な薬物療法の選択肢であり,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は典型的な第一選択である。SSRIが抑うつの中核症状を改善する可能性があるにもかかわらず,特に若年者の中で,SSRIによって引き起こされる自殺関連行動のリスクに対する懸念が増してきている。無作為化対照試験において,SSRIを使用した小児・青年期患者群では,希死念慮や自殺企図の新たな発生リスクが上昇するというエビデンスがあるが,それらは追跡期間が短かったり,実臨床に一般化するには限界があったり,ハイリスク群(自殺関連行動の既往や併存疾患,物質使用障害がある)が除外されている。観察研究においても,SSRIの使用と小児・思春期の自殺関連行動の関連が挙げられており,かつSSRI使用の早い段階で自殺関連行動のリスクが特に高まるといったエビデンスがあるが,それら過去の研究は,適応により起こる交絡のバイアスに左右されている。

本研究では,SSRI治療導入前後1年間での自殺関連行動のリスクについて,全国コホートを用いて評価する。

方法

スウェーデンの国内登録を用いて,2006~2013年の間にSSRI(fluoxetine*citalopram*,パロキセチン,セルトラリン,フルボキサミン,エスシタロプラム)を処方された6~59歳の個人を対象とし,処方記録や人口統計学的情報,死亡記録などを調べた。

初回導入時の自殺関連行動(自殺企図や自殺による死亡)リスクを評価するため,SSRI導入前後1年間の記録を調査した。また,SSRI導入1年後以降においても,治療再開時の自殺リスクを評価するために,その後もより長い期間における複数回のSSRI治療の継続及び中止についても考慮し,他国への移住,死亡,60歳,2013年12月31日のいずれかまで追跡は続けた。

全ての解析は被験者内罹患率比(同一被験者内での治療・非治療期間の比較であり,全ての交絡因子をコントロールできる)で評価した。

結果

SSRIが導入された538,577名(女性62.4%)が対象となり,25~39歳の年齢層が最も多かった(34.6%)。自殺企図率はSSRI導入前1年以内は1.3%,導入後1年以内は1.2%で,自殺既遂率は0.1%であった。全ての追跡期間での自殺企図率は4.4%で,自殺既遂率は0.3%であった。本研究における自殺既遂率は68.7/10万人‐年で,これはスウェーデンの一般人口での自殺既遂率(15.9/10万人‐年)より高かった。最も多い処方はcitalopram(38.6%)で,次いでセルトラリン(37.3%)であった。

導入前後1年間での自殺行動の発生率(図)を見ると,導入1ヶ月前に急激にピークに達し(67.5/1,000人‐年),導入1ヶ月後には下がり(48.6/1,000人‐年),12ヶ月後までには安定した低下(19.8/1,000人‐年)が見られた。被験者内罹患率比を見ると,導入12ヶ月前を基準にすると,導入1ヶ月前が最も高く(7.35,95%信頼区間:6.60-8.18),その後徐々に低下していった(導入1ヶ月後4.47,導入12ヶ月後2.68)。導入1ヶ月前を基準にすると,導入後には有意に罹患率比は低下した(導入1ヶ月後0.62,導入12ヶ月後0.37)。この傾向は各性別,年齢層で一貫していた。薬剤別では,導入後に罹患率比が最も低くなったのは,エスシタロプラムとfluoxetineを処方された患者で,導入1ヶ月後の罹患率比は0.53であった。

治療再開期間の解析でも,罹患率比の緩やかな低下が続き,この低下はいずれの年齢層でも同様に認められた。

結論

本研究では,SSRIは自殺関連行動のリスクを上げず,下げる可能性があることが示唆された。

*日本国内では未発売

図.初回SSRI導入前後の月ごとの自殺関連行動の発生率

255号(No.3)2022年8月8日公開

(桐野 創)

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