若者における自殺企図の経済的・社会的な長期転帰

BR J PSYCHIATRY, 220, 79-85, 2022 Long-Term Economic and Social Outcomes of Youth Suicide Attempts. Orri, M., Vergunst, F., Turecki, G., et al.

背景と目的

12~25歳の若者の4~10%が,成人期に達するまでに自殺企図を経験する。更に,自殺企図を経験した若者は,後に精神疾患の発症と,更なる自殺企図,そして自殺のリスクが高まることが知られている。本研究は若者における自殺企図と,成人後の経済的・社会的転帰の関連について調査した。

調査方法

カナダの児童を対象としたQuebec Longitudinal Study of Kindergarten Children(QLSKC)から参加者を抽出し,6~13歳と15~22歳の間に,1年ごとに追跡した。更に,抽出された参加者に,22~37歳(2002~2017年)の納税記録(Federal tax returns records)を紐づけた。最終的に,自殺企図のデータが得られたのは2,140名で,高学歴の母親を持つ,男性である,精神疾患の父親を持つ,家族に自殺歴がある傾向が強かった。このような差を考慮して,逆確率の重みづけを行った。

経済的・社会的転帰

経済的転帰は,①課税前の個人の収入,給与,売買による利益(固定資産の売却による収益は除く),②退職後の貯蓄,③生活保護,④破産,とした。社会的転帰は,①婚姻状況,②離婚・別居,③子どもの数,とした。

統計解析

共変量として,生活背景と子ども及び家族の特徴,家族の精神障害と自殺,参加者の精神障害,物質依存の4項目を含めた。初めに,自殺企図を経験した若者とそうでない若者について記述統計量を示した。次に,自殺企図の経験と転帰の関連について,ロバスト標準誤差を用いた一般化線形モデルで調べた。

結果

210(9.8%)名が,22歳までに自殺企図を経験していた。自殺企図は男性(6.6%)よりも女性(13.0%)に多く見られた[リスク比(RR)=2.04,95%信頼区間(CI):1.54-2.76]。

経済的・社会的転帰と追跡の結果を表及び図に示す。若年期に自殺企図を経験した者の年間収入の上昇は,自殺企図のなかった者の上昇よりも緩慢であった。経済的転帰については,共変量を考慮しても,若年期に自殺企図を経験した者はそうでない者と比較して収入が低く(調整β=US$-4,134,95%CI:-7,950--317),退職後の貯蓄においても同様であった(調整β=US$-1,387,95%CI:-2,982-209)。また,追跡期間を通じて,若年期に自殺企図を経験した者はそうでない者と比べて生活保護を受ける割合が高かった(調整RR=2.05,95%CI:1.39-3.04)。更に,破産の割合も高かった(RR=1.94,95%CI:1.28-2.93)。

社会的転帰については,22~37歳の間で,自殺企図経験者は非経験者と比較して,結婚や同棲の頻度が低かった(RR=0.82,95%CI:0.73-0.93)。完全調整モデルでは,別居・離婚,同居する子どもの数については差が見られなかった。

結論

本研究の結果から,自殺企図を経験した若者は,そうでない若者と比べて成人以降に経済的・社会的の両方の結果に負の影響を受けている可能性が高いことが示された。

今回の知見は,因果関係ではなく,相関関係を示すものである。これらの相関は,背景となる社会人口統計学的特性,知能指数,親の精神障害,更に若年期の精神障害や物質使用によって部分的に説明される。しかし,このことを差し引いても,自殺企図を経験した若者において経済的・社会的に負の転帰をもたらすリスクは,自殺企図を経験しなかった若者よりも高いことを示唆する。

表.研究参加者の成人期における経済的・社会的転帰の記述的統計
図.22〜37歳における経済的・社会的転帰の、自殺企図の有無による記述的統計

255号(No.3)2022年8月8日公開

(舘又 祐治)

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