COVID-19罹患者における精神保健転帰のリスク:コホート研究

BMJ, 376 e068993, 2022 Risks of Mental Health Outcomes in People With Covid-19: Cohort Study. Xie, Y., Xu, E., Al-Aly, Z.

背景

COVID-19に罹患すると,急性期の後に精神障害の発症リスクが上昇することが知られてきた。しかし,先行研究においては,対象となる精神障害の種類が限られており,また6ヶ月という短期間の追跡にとどまっていた。より長期間での精神障害発症リスクについて知見を深めるため,本研究においては,米国退役軍人省のヘルスケアデータベースを用いて,COVID-19の急性期を乗り切った者における精神保健転帰の発症リスクを検証した。SARS-CoV-2陽性群をはじめとするコホートを長期間追跡し,コホート全体における精神保健転帰の発症リスク,ならびに感染後急性期における療養場所の違い(入院の要否)によるリスクの違いについて検討した。

方法

米国退役軍人省の登録データにおいて,2020年3月1日~2021年1月15日の間に,PCR検査にて1回以上陽性確認がなされた者の中で,確認後30日以上生存していた153,848名を陽性者群とした。追跡終了日は2021年11月30日とした。同時期対照群はPCR陽性歴がない者563,7840名とした。パンデミック現象自体の影響について考慮するため,2017年に退役軍人省を利用し,かつその後にPCR陽性とならなかった者5,859,251名を歴史的対照群とした(追跡終了日は2019年11月30日)。陽性者群は,入院を要した者20,996名と要さなかった者132,852名に分けられた。2017年10月1日~2020年2月29日の間に,季節性インフルエンザに罹患し,かつ陽性後30日以上生存した者72,207名の群も設定した(COVID-19と同様,入院を要した者とそうでない者に分けた。同じ期間における全入院の中で30日以上生存した者786,676名の群も設けた)。転帰は不安症,うつ病性障害,ストレス障害,物質使用障害,神経認知障害,睡眠障害,ならびにこれらの疾病に関する薬物各種の処方とした。各種転帰の発生がPCR陽性後30日目以降であり,かつ陽性前2年間に精神障害の既往がない場合に転帰発生と見なした。交絡因子として,年齢,人種,性別をはじめ多種の要因を考慮した。COVID-19と精神障害の関係については,重みづけ生存時間解析を用いて検討した。各群内の傾向スコアをロジスティック回帰により算出した上で,各々の転帰発症リスクを検証した。

結果

COVID-19陽性群においては不安症,うつ病性障害,ストレス障害,物質使用障害,神経認知障害,睡眠障害の発症リスクが,いずれの対照群と比べても有意に高く,精神障害全てをまとめた場合においても同様であった。関連する薬物処方についても有意差が認められた。入院例においては,この差が更に顕著であった(図)。全精神障害についての比較において,COVID-19群は季節性インフルエンザ群よりも発症リスクが高かった。COVID-19とそれ以外の全入院を比較しても同様であった。

結論

COVID-19の罹患者においては,入院治療が不要であった場合においても,不安や抑うつ,ストレスをはじめとする種々の精神障害発症リスクが中長期的に上昇することが示された。COVID-19罹患後の精神障害への介入が重視されるべきである。

図.COVID-19群(入院の要否を区別)と同時期対照群における、精神保健転帰のまとめについての生存確率比較

255号(No.3)2022年8月8日公開

(滝上 紘之)

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