204の国と地域における12の精神障害の世界的,地域的,国家的な負担 1990~2019年:世界疾病負担調査2019の系統的分析

LANCET PSYCHIATRY, 9, 137-150, 2022 Global, Regional, and National Burden of 12 Mental Disorders in 204 Countries and Territories, 1990–2019: A Systematic Analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. GBD 2019 Mental Disorders Collaborators

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背景

精神障害は,疾病負担の主要な原因としてますます認識されるようになっている。世界の疾病,障害の負担と危険因子の研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD) 2019は,精神障害の負担の測定を含む包括的な国際的取り組みである。本研究の目的は,精神障害の特定・管理・予防に関わる関係者がGBD 2019の推計値を入手・解釈しやすくなるようにすることなどである。

方法

GBD 2019は,1990年以降,男女,23の年齢層,21の地域,204の国・地方における369の疾病や傷害について,発生率,有病率,死亡率,障害生存年数(YLD),損失生存年数(YLL),障害調整生存年数(DALY)を推計している。必要な疫学的データは,PsycINFO,Embase,PubMedの系統的な文献レビュー,灰色文献,専門家との相談によって得た。

ベイズ型メタ回帰ツールであるDisMod-MR 2.1を使って,発生率,有病率,寛解率,死亡率の絶対的基準推定値と調整値をモデル化した。

結果

精神障害の推定症例数(95%不確実区間:UI)は,1990年において6億5,480万(6億360万~7億810万),2019年において9億7,010万(9億90万~10億4,440万)で,1990年から2019年にかけて48.1%の増加に相当した。

精神障害の年齢標準化有病率は,2019年の男女でほぼ同等であった[男性10万人当たり11,727.3件(95%UI:10,835.7-12,693.9),女性10万人当たり12,760.0件(95%UI:11,831.7-13,763.1)]。うつ病性障害,不安症,摂食障害は,男性よりも女性に多く,注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症は男性に多かった。性別や年齢を問わず,最も多い精神障害はうつ病性障害と不安症の二つであった。

摂食障害は,2019年に世界で318.3人(95%UI:285.7-386.0)の死因となり,神経性食欲不振症はそのほとんどを占めた[268.7人の死亡(95%UI:242.5-326.9)]。

精神障害は2019年に1億2,530万DALY(95%UI:9,300万-1億6,320万)を占め,年齢標準化DALY率は10万人当たり1,566.2(95%UI:1,160.1-2,042.8),全DALYの4.9%(95%UI:3.9-6.1)に相当した。精神障害によるDALYの数と割合は1990年から増加したが,年齢標準化DALY率は1990年からほとんど変わらなかった。合計1億2,530万のYLD(95%UI:9,300万-1億6,320万)が精神障害に起因し,2019年の全YLDの14.6%(95%UI:12.2-16.8)に相当した。YLLは摂食障害のみ推定され,17,361.5(95%UI:15,518.5-21,459.8)であった。

精神障害の年齢標準化DALY率(95%UI)は,人口10万人当たり男性では1,426.5(1,056.4-1,869.5),女性では1,703.3(1,261.5-2,237.8)であった。精神障害のDALYでは,うつ病性障害が最も大きな割合を占め[37.3%(32.3-43.0)],不安症[22.9%(18.6-27.5)],統合失調症[12.2%(9.6-15.2)]がそれに続いた。総合的に見ると,1990年に精神障害はDALYの原因の第13位であったが,2019年には第7位となった。診断別では,うつ病性障害は2019年のDALYの主要原因上位25のうち第13位であった(図B)。また,精神障害は1990年に続き,2019年でもYLDの原因の第2位であった。診断別では,2019年のYLDの主要原因上位25のうち,うつ病性障害は第2位,不安症は第8位,統合失調症は第20位であった(図A)。

考察

GBD 2019の結果は,精神障害に起因する疾病負担の割合が世界的に大きいことを示している。更に,負担を軽減できるエビデンスに基づく介入にもかかわらず,1990年以降,負担が世界的に減少しているという根拠も認められなかった。

本研究の限界は,一部の推計がわずかなデータセットに基づくこと,有病率の推定においては測定誤差に起因する変動を全て定量化し取り除けないこと,重症度分布の推定は高所得国を中心とした少数の研究から得られたものであること,などである。

図A.各精神障害の障害生存年数(YLD)率の年齢群別順位、2019年
図B.各精神障害の障害調整生存年数(DALY)率の年齢群別順位、2019年

255号(No.3)2022年8月8日公開

(櫻井 準)

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