米国成人におけるメタンフェタミンの使用,メタンフェタミン使用障害,及びそれに関連する過剰摂取による死亡

JAMA PSYCHIATRY, 78, 1329-1342, 2021 Methamphetamine Use, Methamphetamine Use Disorder, and Associated Overdose Deaths Among US Adults. Han, B., Compton, W. M., Jones, C. M., et al.

背景と目的

米国では,メタンフェタミンの使用に関連した死亡率が著しく上昇している。メタンフェタミンの使用パターンを理解することは,過剰摂取による死亡の予防と治療のための介入に役立つ可能性がある。

本研究は物質使用と過剰摂取による死亡のリスクが最も高い18~64歳の米国成人を対象に実施した横断的研究であり,過去1年間のメタンフェタミンの使用,メタンフェタミン使用障害(MUD),注射,頻繁な使用,関連する過剰摂取による死亡率の全国的な傾向と危険因子を評価することを目的とした。

方法

2015~2019年に全米薬物使用と健康に関する調査(National Survey on Drug Use and Health:NSDUH)に参加した18~64歳の195,711人のデータを調査した。これらのサンプルは,12歳以上の米国の民間人で施設に収容されていない集団におけるメタンフェタミンの使用,使用頻度,MUD,注射に関する全国民を代表するデータを提供するものであった。更に,2015~2019年のNational Vital Statistics System Multiple Cause of Deathファイルのデータの分析により,薬物過剰摂取による死亡率を算出した。

主要評価項目は,過剰摂取による死亡,メタンフェタミンの使用,頻繁な使用,MUD,注射,とした。

結果

NSDUH回答者計195,711人のメタンフェタミン使用,MUD,注射,頻繁な使用に関するデータを分析した。女性104,408人(加重比率50.9%),男性91,303人(加重比率49.1%),ヒスパニック系35,686人(加重比率18.0%),非ヒスパニック系黒人(以下,黒人)25,389人(加重比率12.6%),非ヒスパニック系白人(以下,白人)114,248人(加重比率60.6%)であった。

コカイン以外の精神刺激薬(主にメタンフェタミン)が関与した過剰摂取死は,2015年から2019年にかけて大幅に増加した。全体として,過剰摂取による死亡数は180%増加した(5,526人から15,489人,p for trend<0.001)。

過去1年間のメタンフェタミンの使用を報告した人数は,2015年から2019年にかけて,140万人[95%信頼区間(CI):120-160万人]から200万人(95%CI:170-230万人)へと,全体で43%増加した(p for trend=0.002)。メタンフェタミンとコカインの共同使用も60%増加した[402,000(95%CI:306,000-499,000)から645,000(95%CI:477,000-813,000),p for trend=0.001]。オピオイドを使用しないメタンフェタミンの使用は61%増加し[685,000(95%CI:534,000-835,000)から1,106,000(95%CI:895,000-1,317,000),p for trend=0.02],オピオイドとコカインを含まないメタンフェタミンの使用も58%増加した[527,000(95%CI:404,000-651,000)から833,000(95%CI:668,000-997,000),p for trend=0.005]。

頻繁なメタンフェタミンの使用は66%増加した[615,000(95%CI:512,000-717,000)から1,021,000(95%CI:860,000-1,183,000),p for trend=0.002]。

成人のMUD患者数は62%増加した[672,000(95%CI:539,000-805,000)から1,091,000(95%CI:816,000-1,365,000),p for trend=0.003]。MUDのうち注射なしの患者数は105%増加していた[397,000(95%CI:299,000-496,000)から815,000(95%CI:598,000-1,033,000),p for trend=0.006]。過去1年間にメタンフェタミン使用歴のある成人では,2017年から2019年までの各年において,MUDまたは注射のある者の有病率が,MUDも注射もないメタンフェタミン使用者の有病率を上回った[60~67%(1,118,000~1,181,000) vs 37~40%(556,000~790,000),p for trend≦0.001]。

MUDがあるか注射を使用している成人は,MUDも注射もないメタンフェタミン使用者と比べてメタンフェタミンの頻繁な使用が多かった(52.68~53.84% vs 32.59%,調整リスク比=1.62~1.65,95%CI:1.35-1.94)。

注射をしないMUDの調整有病率は,同性愛者または両性愛者の男性で176%(0.29%から0.80%,p=0.007),同性愛者と両性愛者の女性で238%(0.21%から0.71%,p<0.001),異性愛者の男性では172%(0.29%から0.79%,p<0.001),異性愛者の女性では208%(0.24%から0.74%,p<0.001)増加した。また,人種ごとの分析では,黒人では10倍以上(0.06%から0.64%,p<0.001),白人では3倍近く(0.28%から0.78%,p<0.001),ヒスパニック系では2倍以上(0.39%から0.82%,p<0.001)と増加していた。

メタンフェタミンの使用,MUD,注射,そして頻繁な使用の危険因子として挙がったのは,低学歴,低世帯収入,保険未加入,住宅事情,刑事司法への関与,併存疾患(例:HIV/AIDS,BまたはC肝炎ウイルス,うつ病),希死念慮,多物質使用であった。

結論と意義

2015~2019年に18~64歳の米国の成人において,メタンフェタミン使用とMUD,オピオイドやコカインの有無にかかわらず,精神刺激薬が関与する過剰摂取による死亡が増加傾向にあることがわかった。2017年から2019年までの各年において,MUDまたはメタンフェタミン注射の有病率は, MUDも注射もないメタンフェタミン使用の有病率を上回った。異性愛者の男女,同性愛者や両性愛者の男性,同性愛者や両性愛者の女性,ヒスパニックやヒスパニック以外のアジア人,ネイティブハワイアンやその他の太平洋諸島民,黒人,白人の人種/民族による注射なしのMUDの増加など,サブグループに顕著な傾向が見られた。メタンフェタミン使用のリスクが高い集団は急速に多様化し,特に社会経済的な危険因子や併存疾患が多い集団が多くなっている。このようなメタンフェタミン使用パターンの変化は,過剰摂取やその他の有害事象のリスクを上昇させる。メタンフェタミンの使用,MUD,及び関連する死亡率の急増に対処するためには,エビデンスに基づく予防と治療のための介入を実施することが必要である。

255号(No.3)2022年8月8日公開

(赤石 怜)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。