治療を開始または再導入した統合失調症患者における抗精神病薬の効果と安全性の比較:現実世界の観察研究

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 456-468, 2022 Comparative Effectiveness and Safety of Antipsychotic Drugs in Patients With Schizophrenia Initiating or Reinitiating Treatment: A Real-World Observational Study. Brodeur, S., Vanasse, A., Courteau, J., et al.

目的

本研究の目的は,統合失調症または統合失調感情障害の患者において,様々な経口及び持効性注射剤(LAI)の第一世代抗精神病薬(FGA)と新規の薬剤を含む第二世代抗精神病薬(SGA)の治療効果及び安全性を比較検討することである。

方法

本研究は,カナダのケベック州で実施された,医療行政データベースを対象とした後方視的コホート研究である。対象者は,2006年1月~2015年12月の間に統合失調症または統合失調感情障害の診断を受け,少なくとも1種類の抗精神病薬を開始または再導入した患者であった。再導入者など,純粋な新規治療開始者ではない参加者の存在を考慮し,12ヶ月間のクリアランスベース期間が設定され,その間はあらゆる抗精神病薬が投与されていないこととした。

追跡期間は最長2年間で,転帰として各抗精神病薬カテゴリーの効果と安全性を比較した。効果の定義は,精神障害による入院及び治療中断(少なくとも連続30日間無投薬)のリスクの低下であり,安全性の定義は,全死亡及び精神障害に関連しない主診断による入院リスクの低下であった。経口SGAは各薬剤ごとに,LAI-SGA・経口FGA・LAI-FGAはそれぞれまとめて解析された。先行研究に倣い,臨床現場でも頻用され確立された有効な治療法と考えられる経口オランザピン投与群を基準群とした。

Cox比例ハザードモデルを用い,基準群と比較した転帰事象のハザード比(HR)を95%信頼区間(CI)付きで,各抗精神病薬カテゴリーごとに推定した。

結果

19,615名が研究に含まれた。

効果については,精神障害による入院と治療中断を合わせた複合指標において,クロザピン投与群(調整後HR:0.36,95%CI:0.30-0.42,p<0.0001),次いでLAI-SGA投与群(調整後HR:0.56,95%CI:0.51-0.61,p<0.0001)が,経口オランザピン投与群と比較して,リスクが低いことが示された。クエチアピン,新規の薬剤(パリペリドン,ziprasidone*,アリピプラゾールなど),リスペリドンの経口剤が更に続いた。一方,経口FGA投与群(調整後HR:1.36,95%CI:1.27-1.46,p<0.0001)やLAI-FGA投与群(調整後HR:1.22,95%CI:1.12-1.32,p<0.0001)は,経口オランザピン投与群よりもリスクが高かった。

安全性については,全死亡及び精神障害以外の原因による入院を合わせた複合指標において,経口FGA投与群(調整後HR:1.50,95%CI:1.35-1.67,p<0.0001)を除き,ほとんどの抗精神病薬が経口オランザピン投与群と同程度であった。

考察

本研究は,退役軍人を対象としたものを除けば,LAIをも含めた抗精神病薬治療の効果と安全性を評価する,北米で最大の観察研究であり,一般集団をより適切に代表すると言える。本研究はコホート研究ではあるものの,無作為化対照試験(RCT)は一般化可能性に難があるため,観察研究の方がより臨床に近い情報を提供できると言える。

本研究の限界としては,長期間の治療を要する統合失調症の経過において2年という研究期間が依然として限定的であるという点が挙げられる。対象者を純粋な新規治療開始者に限定していないことも限界の一つであるが,それ故に通常第一選択にならないクロザピンのデータを得ることができた側面もある。

COI

E.S.はLundbeck Canada Inc.とOtsuka Canada Pharmaceutical Inc.から資金援助を受けている。また,Lundbeck Canada Inc,Otsuka Canada Pharmaceutical Inc,Janssenの諮問委員会のメンバーであり,講師を務めている。M.A.R.は,研究実施中にMylan Canada,Janssen Canada,Mylan Canada,Otsuka-Lundbeck Alliance Canadaから助成金を受けたことを報告している。また,提出した研究以外では,Boehringer Canada(研究契約),Lundbeck Canada(研究契約),Otsuka-Lundbeck Alliance(顧問謝礼,講演謝礼),HLS Canada(顧問謝礼),Mylan Canada(顧問謝礼,講演謝礼),Janssen Canada(講演謝礼)から個人的に報酬を受けている。上記以外の著者は,他に競合する利害関係を宣言していない。

*日本国内では未発売

256号(No.4)2022年10月14日公開

(下村 雄太郎)

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