クロザピンで治療されている女性の統合失調症における炎症性サイトカイン濃度の変化

PSYCHOPHARMACOLOGY, 239, 765 - 771, 2022 Pro-Inflammatory Cytokine Levels are Elevated in Female Patients With Schizophrenia Treated With Clozapine. Yuan, X., Wang, S., Shi, Y., et al.

はじめに

クロザピンは,治療抵抗性統合失調症を中心とした慢性期の統合失調症に有効な抗精神病薬である。クロザピンは炎症を調節する特徴を有するため,患者のサイトカインの濃度を上方や下方に調節する可能性がある。

本研究の目的は,クロザピンで治療中の慢性期の統合失調症患者では,健常者と比較して血清サイトカイン濃度に変化があるのかどうか,血清サイトカイン濃度に性差はあるかどうか,血清サイトカイン濃度とクロザピン投与量には相関が認められるかどうか,という点を明らかにすることである。

方法

安徽医科大学の巣湖病院からクロザピン単剤投与中の慢性期の統合失調症49名を募集し,対照群として同大学の健康診断センターから年齢及び性別をマッチさせた53名の健常者を募集した。

統合失調症群の精神症状は陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて評価した。両群に対して,蛍光サンドイッチELISA法を用いて血清のインターロイキン(IL)-1β,IL-2,IL-6,IL-17,インターフェロン(IFN)-γ,腫瘍壊死因子(TNF)-αのレベルを測定した。

統計手法としては,両群のサイトカイン濃度の違いと統合失調症群内での男女によるサイトカイン濃度の違いに関しては独立標本t検定を,精神症状とサイトカイン濃度の相関についてはSpearmanの相関を用いて求めた。

結果

統合失調症群は健常群と比較してIL-2の濃度が低く(p=0.04),一方でIL-6,IL-17,TNF-αの濃度が高かった(いずれもp=0.00)。これらの違いは年齢,性別,教育歴,体格指数(BMI)といった因子を調整しても有意であった。統合失調症群の中では,IL-1β(p=0.00)とIL-2(p=0.04)の濃度はいずれも女性が男性よりも低かった。統合失調症の女性群では,IL-2のレベルはクロザピンの投与量が多いと低くなるといった負の相関が認められた(r=-0.67,p=0.01)。

考察

薬物治療歴のない初回エピソード精神病ではIL-1β,IL-6,TNF-αといった炎症性サイトカインが上昇しているという報告があるが,抗炎症性サイトカインであるIL-4に加え,IL-12やIFN-γといったサイトカインは低下しているとも報告され,統合失調症患者のサイトカイン濃度についてはまだ一定した結論には至っていない。

初回エピソード精神病では抗精神病薬の治療はIL-1β,IL-6,IFN-γ,TNF-αなどの炎症性サイトカインレベルを低下させ,一方でIL-2やIL-17の濃度は変化させないという報告がある。クロザピンに関してはIL-1α,IL-1β,IL-2,IL-17の濃度を低下させるという報告がある。

更には,クロザピン投与中の女性統合失調症患者でIL-1β,IL-8,IL-17,IL-23が上昇しているという研究もある。In vitroの研究ではクロザピンがIL-6の分泌を増やすという報告もある。

本研究と今までの研究をまとめると,クロザピン投与によってIL-2濃度の低下が生じることは共通している。特に,本研究では女性の統合失調症患者が男性の統合失調症患者よりもIL-2レベルが低く,更に女性患者のIL-2の濃度とクロザピンの投与量に負の相関が認められることが特徴的であった。

本研究の問題点は,サンプルの少なさと,薬剤治療をされていない統合失調症患者のデータがないことである。これらの問題点はあるものの,本研究はクロザピンが女性統合失調症患者の免疫系に大きな影響を与えていることを示している。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(船山 道隆)

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