抗精神病薬治療が高リスク者において長期的に精神病を予防しないという更なるエビデンス

EUR ARCH PSYCHIATRY CLIN NEUROSCI, 272, 591-602, 2022 Further Evidence that Antipsychotic Medication does not Prevent Long-Term Psychosis in Higher-Risk Individuals. Zhang, T., Wang, J., Xu, L., et al.

はじめに

精神病の非常に初期の段階で,軽微な精神病症状を持つ個人は精神病の臨床的高リスク(CHR)と見なされる。CHRのうち2年以内に完全な精神病に転換するのは約3分の1のみとされる。

既存の診療ガイドラインでは,CHRに対して抗精神病薬を使用することは推奨されていないが,陽性症状が抗精神病薬治療の対象であるならば,臨床医はリスクの高いCHRに抗精神病薬を処方することを当然と見なす可能性がある。抗精神病薬がCHRにおける精神病を予防できるかどうかは不明である。

本研究はCHRに対する抗精神病薬治療の有効性を検証することを目的とした。

方法

上海精神衛生センターに助けを求めたCHRを対象とし,ShangHai at Risk for Psychosis(SHARP)の拡大研究を実施した。統合失調症前駆症状の構造化面接(Structured Interview for Prodromal Syndromes:SIPS)を用いて300名のCHRを特定し,3年間追跡した。参加者は13~45歳で,少なくとも6年間の初等教育を受けていた。がんなどの身体疾患,精神遅滞,神経発達症,薬物乱用の既往のある者は除外した。全ての参加者は基準時点で精神障害の治療を受けていなかった。228名(76.0%)がNAPLS-2-RCを用いて基準時点の評価を完了し,210名(92.1%)が追跡を完了した。

更にリスクレベルに応じて参加者を層別化した。リスクの高いCHRの定義は,NAPLS-2-RCによるリスク評点≧20%と,SIPSの陽性症状合計評点≧10とした。

主要評価項目は精神病への転換と機能的転帰不良とした。精神病への転換の定義はSIPSで6レベル以上の危険な,またはまとまりのない精神病症状の存在とし,機能的転帰不良の定義は追跡時の機能の全体的評定(Global Assessment of Function:GAF)が60未満とした。

追跡期間に抗精神病薬が少なくとも2週間以上投与されたかどうかに応じて,対象症例を非抗精神病薬群(59名)と抗精神病薬群(151名)に分けた。更に,抗精神病薬群をオランザピン等価用量で10mg/日未満をカットオフとし,低用量群(89名)と高用量群(62名)に分けた。

結果

3年後の追跡時において,210名のうち,56名(26.7%)が精神病へ転換しており,92名(43.8%)が機能的転帰不良であった。

リスクの高いCHRでは,抗精神病薬群と非抗精神病薬群の間で,精神病への転換または機能的転帰不良に有意差は認められなかった。リスクの低いCHRでは,非抗精神病薬群と比較して,抗精神病薬群の方が機能的転帰が不良である可能性が高かった(NAPLS-2-RC推定リスク:χ2=8.330,p=0.004;陽性症状の重症度:χ2=12.997,p<0.001)。

89名(58.9%)が低用量の抗精神病薬治療を受け,オランザピン等価用量で4.9mg/日[標準偏差(SD)=2.0],平均投与期間は45.2週間(SD=36.4)であった。62名(41.1%)が高用量の抗精神病薬治療を受け,オランザピン等価用量で14.5mg/日(SD=6.2),平均投与期間は67.3週間(SD=32.0)であった。

精神病への転換を予防するために有効な因子は特定されなかった。逆に,高用量の抗精神病薬(オランザピン,アリピプラゾールなど)で治療されたCHRは機能的転帰不良のリスクが有意に上昇した。

結論

縦断的なデザインを用い,かつ大規模な自然経過観察研究である本研究の結果は,CHRに対する抗精神病薬治療の精神病発症予防効果を支持するものではなかった。また,抗精神病薬は,精神病への転換のリスクが高いCHRにおいてでさえも機能的転帰不良のリスクになることから,細心の注意を払って処方されるべきであることが示唆された。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(倉持 信)

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