精神病未治療期間と,初回エピソード精神病以降の症状・生活機能・QOLとの関連における不均一性についての20年間の逐次前方視的追跡研究

AM J PSYCHIATRY, 179, 288-297, 2022 20-Year Prospective, Sequential Follow-Up Study of Heterogeneity in Associations of Duration of Untreated Psychosis With Symptoms, Functioning, and Quality of Life Following First-Episode Psychosis. O’Keeffe, D., Kinsella, A., Waddington, J. L., et al.

背景と目的

精神病未治療期間(Duration of untreated psychosis:DUP)が長いと転帰が不良で,逆にDUPが短いと転帰が良好であるというエビデンスがあるが,DUPと諸転帰の関係が,生涯精神病期間を通じてどの程度持続するのかについてはこれまで検討されていないことから,本研究では20年間の逐次前向き研究を行った。

方法

アイルランドで12歳以上で,かつStructured Clinical Interview for DSM-IV Axis I Disorders(SCID-I)により初回エピソード精神病と診断された患者171名を抽出して,疫学的に初回エピソードを代表する発症コホートを作成した。初回エピソード精神病の定義は,急性症状を伴った精神症状による初回の受診で,受診前に抗精神病薬の処方を受けたことがあった場合は,投与期間が30日未満であることとした。DUPの評価は,安定期に入った患者にBeiserらの尺度を用いて実施した。基準時点において,年齢,教育を受けた年数,SCID-Iに基づいた診断,性別,同居者の有無,生涯における薬物またはアルコール乱用経験の有無を記録した。基準時点と,半年後,4年後,8年後,12年後,20年後のそれぞれの追跡時点で,精神病理,生活機能,生活の質(QOL)について記録した。精神病理は 陽性・陰性症状評価尺度(PANSS),生活機能は全体的機能評定尺度(Global Assessment of Functioning Scale:GAF),QOLはクオリティ・オブ・ライフ尺度(QLS)を用いて評価した。

統計解析

研究脱落者による影響がないかどうかを確認するため,追跡回数で参加者をグループ分けし,群間差の解析を行った。基準時点の2値変数について,クロス集計表での分析を行い,2値でない変数については一次元配置分散分析及びKruskal-Wallis検定を実施した。

基準時点における2値及び非2値の変数が,期間中の精神病理,生活機能,QOLの予測因子となるかを検証するため,縦断的な軌跡解析を行った。解析には線形混合モデルを用いた。基準時点の変数として,時間,DUPの四分位数,DUPの四分位数の交互作用について評価を行った。

結果

参加者の平均年齢は29.1(標準偏差12.0)歳で,58%は男性であった。

基準時点の変数を調整した線形混合モデル解析の結果,PANSSの全症状に対する時間の作用はχ2=261.87,df=5,DUP四分位数の作用はχ2=16.76,df=3であった(いずれもp<0.001)。GAFに対する作用は,時間でχ2=880.34,df=5,p<0.001;DUP四分位数でχ2=24.55,df=3,p<0.001;DUPの四分位数の交互作用でχ2=35.20,df=15,p=0.013であった。QLSに対する作用は,時間でχ2=93.71,df=5,DUP四分位数でχ2=26.65,df=3,DUPの四分位数の交互作用でχ2=38.82,df=15であった(いずれもp<0.001)。

軌跡解析の結果,DUPの影響について以下に示す四つの大きな軌跡が明らかになった。軌跡①:時間による明確な全体効果によって,急勾配で曲線的なスコア低下(症状の軽減)が追跡6ヶ月時点から4年時点の間に顕著であり,8年目には典型的に横ばいとなるものであった。DUP四分位の長さに,20年間に一貫する高スコア(症状の増悪)との関連があった。軌跡②:軌跡①よりも緩やかな,全体効果によって示される得点の低下(症状の軽減)があった。DUPの四分位の長さに,20年間に一貫する高スコア(症状の増悪)との関連があった。軌跡③:追跡6ヶ月時点から4年時点の間に顕著で,8年目には横ばいになる急勾配で曲線的なスコア上昇(転帰の改善)が示された。DUPの四分位が長いほど,20年間を通じてスコアが低い(転帰の悪化)ことが,DUPの四分位の有意な全体効果によって示された。軌跡④:急勾配でない曲線的なスコアの増加(転帰の改善)が示された。4年から8年までには横ばいになった。DUPの四分位が長いほど,20年間を通じてスコアが低かった(転帰が悪化した)。しかし,この効果は時間と共に変化し,DUP四分位と時間相互作用の存在が示された。

結論

DUPと長期的転帰の関係は,領域によっては数十年間にわたって持続することが示された。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(舘又 祐治)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。