うつ病急性期における抗うつ薬併用療法と単剤療法:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 300-312, 2022 Combining Antidepressants vs Antidepressant Monotherapy for Treatment of Patients With Acute Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Henssler, J., Alexander, D., Schwarzer, G., et al.

背景

初回の抗うつ薬の単剤治療によるうつ病の寛解率は,40%弱にとどまる。治療効果に乏しい場合の第二段階の治療選択として,他の抗うつ薬への変更や用量の増量,リチウムや第二世代抗精神病薬追加による補強療法,2種類の抗うつ薬の組み合わせ,という方法がある。臨床実地上,うつ病急性期で抗うつ薬の併用はよく行われるが,その研究結果は一貫性に乏しい。そこで本研究では,抗うつ薬併用療法の効能及び忍容性について評価するために,系統的レビューとメタ解析を行った。抗うつ薬併用療法は,モノアミン再取り込み阻害薬[選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI),三環系抗うつ薬]と,シナプス前α2自己受容体拮抗薬(ミアンセリン,ミルタザピン,トラゾドン),もしくはbupropion*との組み合わせを対象とした。

方法

MEDLINE,Embase,PsycINFO,Cochrane Central Register of Controlled Trialsを各データベースの開始時から2020年1月まで系統的に調査した。対象は,うつ病急性期の18歳以上の患者において抗うつ薬2剤による併用療法と抗うつ薬単剤療法を比較した無作為化臨床試験とした。双極性うつ病のみを対象とした研究,ならびに維持療法の試験は除外した。PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses)のガイドラインとCochrane Handbookの勧告に従い,2名の査読者が独立して文献検索,研究選択,データ抽出,バイアスリスクの評価を行った。

主要転帰評価項目は,併用療法と単剤療法間における,標準化平均差(standardized mean difference:SMD)で評価した効果とし,副次転帰は治療反応,寛解,基準時点からの症状尺度評点の変化,脱落数,有害事象による脱落数,とした。

要約SMDとオッズ比(OR)は,ランダム効果メタ解析によって算出した。

結果

無作為化臨床試験39報(患者6,751名)が最終的な解析対象となった。急性期治療効果に関しては,抗うつ薬併用療法の方が単剤療法よりも有意に優れ[SMD=0.31,95%信頼区間(CI):0.19-0.44],38報中31報で併用療法の優位性が示された。

また,モノアミン再取り込み阻害薬とシナプス前α2自己受容体拮抗薬との組み合わせが,単剤療法より有効であった(18報,SMD=0.37,95%CI:0.19-0.55)。Bupropionとの併用療法は抗うつ薬単剤療法に対する優位性を示さなかった(7報,SMD=0.10,95%CI:-0.07-0.27)。

全ての脱落数及び有害事象による脱落数は,併用療法と単剤療法間で相違なかった[OR(95%CI)は全ての脱落で0.99(0.86-1.14),有害事象による脱落で1.17(0.79-1.75)]。

研究は不均一であり,出版バイアスの兆候が認められたが(Eggerテスト陽性,p=0.007,df=36),バイアスリスクの低い研究に限定した解析も含めて,事前に指定した副次転帰や感度分析,サブグループ解析でも同様の結果が示された。

結論

抗うつ薬の併用療法と単剤療法を比較した結果,抗うつ薬併用療法の方が治療効果に優れ,また,脱落率が増えることもなかった。うつ病の重症例や治療反応が乏しい場合には,モノアミン再取り込み阻害薬とシナプス前α2自己受容体拮抗薬との組み合わせによる抗うつ薬併用療法が薬物療法の第一選択となり得るであろう。Bupropionとの併用療法に関しては,情報が不十分である可能性もあり,更なる検討が望まれる。

利益相反

著者の1名はドイツ連邦教育研究省から研究助成を,1名は外部統計コンサルタントとしてRoche Pharma社から報酬を受けた。

*日本国内では未発売

256号(No.4)2022年10月14日公開

(尾鷲 登志美)

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