うつ病及び双極性障害における過敏性腸症候群及び炎症性腸疾患の有病率及び発症率:系統的レビューとメタ解析

PSYCHOSOM MED, 84, 313-324, 2022 The Prevalence and Incidence of Irritable Bowel Syndrome and Inflammatory Bowel Disease in Depression and Bipolar Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nikolova, V. L., Pelton, L., Moulton, C. D., et al.

背景

うつ病及び双極性障害を含む気分障害により生活の質は低下し,それらの障害がある患者では,ない場合よりも死亡率が高いことが知られており,その原因の一つとして,身体疾患の合併率が高いことが考えられている。

過敏性腸症候群(IBS)及び炎症性腸疾患(IBD)は患者に強い影響を与える疾患であり,気分障害との関連も多く報告されている。IBS及びIBDは高い頻度でうつ病と併存し,健常者と比較してIBSの場合は3倍,IBDの場合は2~4倍うつ病を合併するリスクが高い。また,身体障害と精神障害の双方向の関係,腸脳相関の存在も知られている。しかし,気分障害におけるIBS及びIBDの有病率に関して系統的な調査は行われていない。

本稿では,①うつ病及び双極性障害患者におけるIBS及びIBDの有病率を調査し,②新たに発症するIBS及びIBDの危険因子としてのうつ病及び双極性障害についてのエビデンスを要約する。

方法

EMBASEとMEDLINE,関連論文の参考文献リスト,Google Scholarで,うつ病,双極性障害,IBS,IBDに関連する検索語などを用いて文献検索を行った。主な組み入れ基準は,前方視的コホート,後方視的コホート,横断的もしくは症例対照研究で,うつ病または双極性障害(曝露)とIBSまたはIBDの有病率または発症率(結果)の関連を報告していること,IBS及びIBDの診断に評価尺度や診療記録を用いていることとした。

結果

2,693報の論文が特定され,最終的に組み入れ基準を満たしたのは20報であった。

気分障害におけるIBSの有病率に関しては11報の研究から合計150,676名の気分障害患者(うつ病147,958名,双極性障害2,718名)と2,734,200名の対照者がメタ解析の対象となり,うつ病患者は対照群と比較してIBSを有するリスクは2.4倍[リスク比(RR)=2.42,95%信頼区間(CI):1.98-2.96]であった。双極性障害患者においては対照群と比べてリスクが上昇していたが,統計学的に有意ではなかった(RR=1.55,95%CI:0.75-3.19)。発症率に関しては,3報の研究から合計6,209名の気分障害患者(うつ病5,806名,双極性障害403名)と193,554名の対照者がメタ解析の対象となり,IBSを発症するリスクは,うつ病患者では対照群と比較してほぼ2倍であった(RR=1.90,95%CI:1.41-2.56)。

気分障害におけるIBDの有病率及び発症率に関しては,研究間のデザインや方法論が大きく異なるためにメタ解析を行うことはできなかった。うつ病におけるIBDの有病率を調査した論文は1報で,うつ病患者のIBD有病率は対照群と比較して39%高かった。また,IBDを発症するリスクに関して調査した論文は1報で,うつ病患者では対照群と比較してリスクが2倍以上であった(発症ハザード比は,クローン病で2.11,潰瘍性大腸炎で2.23)。双極性障害患者におけるIBDの有病率に関しては2報あるが,結果は一貫していなかった。

結論

うつ病患者ではIBS及びIBDのリスクが高いことから,気分障害患者における胃腸症状を注意深く観察し,治療を提供することが求められる。また,胃腸疾患を治療する内科医は患者の精神科病歴にも注意を払うべきである。

双極性障害とIBS・IBDとの関連,及び向精神薬がIBS・IBDに与える影響については更なる研究が必要である。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(内田 貴仁)

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